『東京喰種 トーキョーグール【S】』松田翔太 単独インタビュー
完全に恋愛映画だと思って挑んだ
取材・文:那須千里 写真:日吉永遠
人を喰らわなければ生きられない「喰種」と人間との答えなき闘い、その行方はどこへ……? 石田スイによるコミックの実写映画化第二弾『東京喰種 トーキョーグール【S】』では、原作で絶大なインパクトを誇る敵役で、アニメ版でも人気声優の宮野真守が声を務めるなど注目されてきた美食家「月山習」が登場する。今回のキモと言ってもいいこの新キャラクターを演じたのは松田翔太。「恋愛映画」として本作に挑んだという、松田ならではの月山像に迫る。
最も月山を理解できた、あのセリフ
Q:窪田正孝さんが演じる金木(カネキ)へのエキセントリックな言動が予想をはるかに上回って「トレビアン」でした!
月山はとにかく「カネキくんを喰べたい!」という人なので、その欲望をシンプルに突き詰めていけば、自然と極端なテンションになるんじゃないかと思ったんです。何しろじれったいぐらい、食べさせてくれないので(笑)。実際に撮影現場で窪田くんを前にした自分が、月山としてどう感じていくのかは、僕自身としても興味がありました。そこには「喰べられない」というフラストレーションの一方で「片思い」というフラストレーションもあって。だからこそ、初めて血を舐める瞬間に向けて、気持ちを昂らせるように集中していました。
Q:その月山の気持ちが伝染して、思わずじれったい目線でカネキを見てしまいそうなぐらいです。
ただ、月山は真の悪者ではないと思ったんです。家柄も裕福だし知的でもあって、本質的な品の良さを持っている。カネキに対する欲望も単純に空腹を満たしたいということではなく、相手への敬意があって、自分をそこまで興奮させてくれたことへの感謝の気持ちも込もっているんです。それが極限まで高じて出てきたのが「カネキくんが喰べながらカネキくんを喰べたい!」という言葉だと思うので、僕の中ではあれが月山というキャラクターを最も理解できたセリフです。
Q:カネキに執着する月山のベースには愛情があるのですね。
僕は完全に恋愛映画だと思って挑みました。例えば本当に好きな人のことを思い浮かべているときの感情や、何かをものすごく欲したときにわがままになってしまう気持ちなど、実際の自分の生活や気持ちに近いところに寄せていったので、無理やり月山の気持ちを作ったわけではなかったんです。それが実写の月山をリアルな存在として感じさせてくれたのかなとも思います。
月山は月山のルールで生きているだけ
Q:今回の実写版では、月山のマスクの形状が、原作漫画やアニメ版から大きく変化しています。
マスクを被っていても素顔の表情が汲み取れて、かつ異様な空気も醸し出すものにしたかったので、そこは僕も意見を出させてもらいました。というのは、月山が興奮している状態を顔の表現だけでは見せたくなかったんです。それよりも音、そして彼が最も敏感に反応している香りを、顔に密着したフルフェイスの形状からハァハァという息遣いだけが聞こえている方が表現できるのではないかと。
Q:このマスクの下で月山は一体どんな顔をしているんだろう、と……?
想像してもらいたかったんですよね。その際に原作通りの硬そうな質感のマスクだと、本当に無表情に感じられてしまいそうだったので、敢えて柔らかい素材にしてもらったり。それによって月山の変態性を感覚的に受け取ってもらえるんじゃないかという狙いもありました。
Q:人間とは似て非なる「喰種」を演じるにあたってどんな挑戦がありましたか?
月山は喰種の中でも特殊な存在で、圧倒的に自分のルールを持っている人なので、そこがブレないようにしたいと思いました。彼は彼なりのルールに従って生きているだけで、その意味においては、普通の人間が自分たちのルールの中で普通の暮らしをしているのと変わらない。考え方の違いだから、彼は彼で「正当」ではあるんです。ただ、それを平然とやってのけるように見せるのが、難しいところではありましたね。
Q:月山には、他人と違う自分のルールを、理解して欲しいという気持ちはあるのでしょうか。
例えば美味しいものを食べたり、素敵な場所に行ったりしたら、人に伝えたいですよね? それと同じことだと思うんです。お茶の飲み方ひとつでも、正しい茶道や英国式のティータイムの作法にのっとったものはすごく優雅で、手間はかかるけどペットボトルでは味わえない美味しさがある。月山はその感覚を知っているからこそ、「喰べる」からには最高の状態を求めるし、シンプルにそれをみんなにも教えたいと思っているんじゃないかな。
窪田正孝には絶対的な「正しさ」を感じる
Q:窪田さんとは以前にも共演されていますが、あらためてご一緒されていかがでしたか?
窪田くんは「正しい」感じがする。彼のその正しさが、ネガティブな要素を含んだ世界観の中でも、どこか希望を感じさせて、ポジティブに映るに違いないと思いました。それは本人がもともと持っている真っ直ぐなエネルギーがないと伝わらないものだと思うんですけど、窪田くんに関してはそこに疑いがない。それは以前から変わらないです。
Q:松田さんご自身としても、月山としても、大きな信頼と愛情が伝わってきます。
半喰種になって、人間として生きていく上である種の「障害」を背負ってしまったこと、人を「喰べる」ことへの葛藤などを、普段僕らが日常で感じる壁やそれに立ち向かっていく物語に置き換えられるように、窪田くんなら表現してくれるだろうなと思いました。だからこそ、僕は安心してヒール役に徹することができたんです。
Q:董香(トーカ)役の山本舞香さんは同じく本作から参加のニューフェイスでした。
舞香ちゃんは、自分では「人見知り」だと言うんですけど、すぐに人の懐に転がり込んでくるようなところがあって。物怖じしなくてちょっとナマイキなところはトーカちゃんのキャラクターにも近い。三人の中では僕が最年長だったので、会話や食事の機会も率先して設けたり、リラックスした現場にしたいとは心がけていましたね。
この続きは一度フラれてからの再スタート!?
Q:本作は川崎拓也・平牧和彦の両氏による共同監督作ですが、日本映画では珍しい体制ですね。
僕は新しいことが好きなので、オファーを受けたときから、刺激をもらえるんじゃないかなと期待していました。撮影前にも監督とディスカッションをしたんですけど、基本的にそういう作り方をしたいタイプなんです。
Q:もし映画のシリーズが続くとしたら、月山とカネキの関係はどうなっていくでしょうか……?
この続きがあるとしたら、もう月山の気持ちはカネキにバレているので、告白して一度フラれた状態からのスタートになりますよね(笑)。ストーカーみたいにはなりたくないけど、かといって好意を大っぴらにしすぎるのもプライドが許さないし……。そこでの彼の感情がどうなっていくのか、というのもまた興味深いですね。
「変態」というのが最高の褒め言葉にもなるキャラクターに、エレガントな美しさと気品を宿し、独自の哲学まで搭載した最強の新キャラ。それはもはや松田にしか出せない映画オーダーメイドの「月山習」となっている。彼が狂おしいほど「喰べたい」と恋い焦がれるカネキとのドラマは間違いなく“ラブストーリー”だ。「女王蜂」が歌う主題歌「Introduction」の流れるエンドロールも、最後まで目が離せない。
(C) 2019「東京喰種【S】」製作委員会 (C) 石田スイ/集英社
映画『東京喰種 トーキョーグール【S】』は7月19日より全国公開