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『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』大泉洋 単独インタビュー

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『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』大泉洋 単独インタビュー

「水曜どうでしょう」にも似た構造がある

取材・文:轟夕起夫 写真:木川将史

あの太宰治の未完の遺作を演劇界の鬼才ケラリーノ・サンドロヴィッチが独自の視点を交えて戯曲化、演出し、読売演劇大賞最優秀作品賞に輝いた舞台「グッドバイ」。それが『八日目の蝉』『ソロモンの偽証』の成島出監督の手で、映画になった。ガサツで大食い、がめつい永井キヌ子役に2015年の初演時にもこの役を演じ、同賞の最優秀女優賞を得た小池栄子。複数の愛人がいて受難続きとなる文芸雑誌の編集長、田島周二役には大泉洋。小池と共にダブル主演を務めた彼が、作品のスポークスマンぶりを発揮した。

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小池栄子はうまくて綺麗な人

大泉洋

Q:どのような心づもりで、本作に取り組まれましたか?

コメディーではあるんですけど、あまり僕の方でコミカルにするとトゥーマッチになってしまうと思ったんですよね。そうなるのが怖いので、なるべく自分の置かれた「特殊な状況」を素直に表現しようと努めました。

Q:大泉さんが演じられた田島は、何人もの愛人を抱えています。彼をどのように解釈されましたか?

田島は優しくて、惚れっぽいんでしょうね。別れるたびに「彼女こそ僕にとって一番大事な人だったんじゃないか」と後悔してますから。Aという女性にはこの部分、Bという女性にはまた違う部分と、求める要素が分かれていて、一人一人に依存していたんじゃないかなあ。

Q:愛人役の緒川たまきさん、橋本愛さん、水川あさみさん……全員タイプが違いますものね。

自分にないものを彼女たち3人に見いだしていた、とも考えられる。また、彼女たちと別れるために嘘夫婦を演じてもらうキヌ子もそうで、この映画は、キヌ子の変わりようが一つの魅力なんです。最初、担ぎ屋で汚い格好をしているんだけども、それが可憐なワンピースに着替えて登場するシーン、いいですよ!

Q:キヌ子役でダブル主演の小池栄子さん、それに嘘夫婦の計画を提案する流行作家役の松重豊さんなどなど、隅から隅まで芸達者がそろいました。

小池さんとは舞台「子供の事情」(2017年/三谷幸喜作・演出)以来でしたが、息が合い、そして改めて言うのもなんですが、やっぱりうまくて綺麗な人です。それから今回、松重さんとしっかり共演できたのもうれしく、他にも巧みな役者さんばかりだったから、すべての共演シーンで皆さん、「ここでどんなお芝居をしてくるのかしら」と楽しみでしたね。

監督の指示でどんどん変態キャラに

大泉洋

Q:成島出監督と初めて組まれてみていかがでしたか。

ワンカットワンカット、非常に丁寧に撮られる監督で、キヌ子は無論のこと、女優さんたちを皆、美しく撮られていました。大事なシーンで瞬きをするとよくNGを出されていて、そういう細かいところまで目が行き届く方です。

Q:成島監督といえば近年は、『ソロモンの偽証』『ちょっと今から仕事やめてくる』などシリアスな作品のイメージが強いですが。

そうなんです。だからどんな風なコメディーになるのか興味津々で。フタを開けたらそのコメディーセンスに舌を巻きました。緒川たまきさんふんする花屋に、田島が「グッドバイ」を言う時のちょっと湿った感じのオモロい芝居のニュアンスは監督の演出ですし、案外笑いがシュールな方なのかなと。橋本愛ちゃん演じる挿絵画家のところにグッドバイしに行く場面なんて、もうカオスで! さーっと風が吹き、覆っていた布が外れ、キャンバスが見えると怖い絵で、そこに暴れん坊の兄(皆川猿時)がやってきてハチャメチャな事態になっていく。現場でも笑いが止まらなかったし、完成試写を観ても笑いすぎて気づいたら涙が出てましたもん。

Q:田島役に関してディレクションは?

面白かったのが、こんなにも田島という人物が変態性の強い人だったのかっていう演出が増えていったこと。「キヌ子のお尻を舐めるように見続けてくれ」とか、それから僕がキヌ子に襲いかかるシーンがあるんですけど、要所要所に細かい演出があって、「尻に抱きついた瞬間に恍惚の表情を浮かべ、襲ったら犬のように腰を振ってくれ」って(笑)。

Q:映画のスタート時のトーンからすると、まさかそんな方向に行くとは思いませんよね。

どうして田島はこんなにも女性にモテたんだろうと考え、どこか魅力的な一面も見せなきゃと思いながら演じていたら、随分変態チックに描かれていくなあって(笑)。一応、「大丈夫ですかね、監督?」と訊いたら、「絶対大丈夫。とっても可愛らしく映っているから」と説得されました。

2度繰り返される愛の言葉

大泉洋

Q:母性本能をくすぐられますが、田島は基本的にダメ男なのでしょうか?

ですね。愛人に囲まれていたわけだけど、彼女たちが離れていくと寂しくなっていくんですよ、田島は。それでさらにダメになっていき、「やっぱり俺は女性がいないと生きていけない」「いかに女性が素晴らしいか」と力説するシーンはバカバカしくも悲しげで、でも、田島を愛おしくも感じました。

Q:後半、意表を突く展開も待っています!

ひ弱そうで繊細な田島と、自分でどんどん稼いでいくパワフルなキヌ子という女性がいて、これは終戦直後のとても活気のある時代のお話なんですね。ジャンルとしてはラブコメとは違う「スクリューボールコメディー」(※1930年代から40年代にかけてハリウッドで流行ったコメディー映画)の醍醐味が詰まっている。つまり適度な説明の仕方というのかな、どこでキヌ子が田島に惹かれたのか、逆に田島はどうしてキヌ子が好きになったのか、明確に綴られはしないんだけどもその辺りが程よいスピード感で描写されていくのが心地いいんですよ。

Q:田島からキヌ子への、「君はあれだな、バカだな」という言葉が2度出てきて、その意味合いが変わるのもオツです。

成島監督は当初、2度目の方は言わせないつもりだったらしいです。でもあれは田島の「愛の言葉」ですからね。僕のためにこんなことまでしちゃって、君は本当にバカだなあっていう。

Q:そんな田島も、松重さんふんする作家に「バカだな」と言われていましたね。

田島はバカですよ! ハナからうまくいかなさそうだもの、あの授けてもらった作戦は。それを言われた通りにやってしまうんだからね(笑)。ウイスキー一本とピーナッツの袋を持って、キヌ子を口説きに家を訪れるところは田島のバカさ加減が表れていました。

「水曜どうでしょう」にも似た構造を持つ映画!?

大泉洋

Q:田島の魅力ってどこか、大泉さんと重なりませんか?

どうだろう。舞台では仲村トオルさんが田島を演じていますよね。「モテる」というところでも大変説得力があったわけで、映画はその面では相当難しいでしょう(笑)。僕がやっているぶん、「なんでこの人がモテてるんだろう」って若干疑問は湧くと思う。人生でモテたのは小学校までで、それ以降はモテた記憶がない!

Q:とすると、これまでの人生で「グッドバイ」にまつわる思い出は……。

グッドバイされてツラかった記憶しかないな。そういえば若い頃、何とか自分では気丈に振る舞ってるつもりだったんだけど、家族にはお見通しだったみたいで。親父から「なしたお前、最近?」って声をかけられ、「大体な、男がそんだけ落ち込んでたら女だ」ってバレバレでした(笑)。

Q:とはいえ、スクリューボールコメディーの典型というか、踏んだり蹴ったりなめにあうこの田島役は、失礼かもしれませんが大泉さんにピッタリでした。

確かに、田島が困れば困るほど皆さんは笑う、という映画ですものね。「水曜どうでしょう」にも似た構図じゃないですか! ワタシがツラいめにあえばあうほど、みんなが幸せになっていく。好きなんですよねえ、日本国民はホント、僕がヒドいめにあうのが(笑)。


大泉洋

今や地元の北海道のみならず、国民的アクターとなった大泉洋。その彼が「脚本(=奥寺佐渡子)が面白くて読んでいる途中でマネージャーに『面白い! ドキドキする! こういう作品に出たかった!』とメールした」という作品である。インタビュー中、意図せずして本作と「水曜どうでしょう」との接点が見つかってしまったが、そう考えるとこの田島という役柄との巡り合わせは、半ば運命的と言えるかもしれない。

(C) 2019「グッドバイ」フィルムパートナーズ

映画『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』は2月14日より全国公開

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