『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』山田裕貴 単独インタビュー
何も変わらないまま生きるのは嫌
取材・文:高山亜紀 写真:映美
アニメ「クレヨンしんちゃん」の劇場版第28弾『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』で、初のアニメ声優を務めた山田裕貴。地上の人々に無理やりラクガキをさせる「ウキウキカキカキ作戦」を実行するキーパーソン、ラクガキングダムの防衛大臣役でのアニメ声優デビュー。さぞ喜んでいるのでは? と思えば、その闘志はめらめらと燃えていた。まるで新人のように自分で自分を駆り立て続ける理由とは?
まさかのがっつり出演に悩みまくり
Q:役が決まった時の心境を教えてください。収録が近づくにつれて、気持ちの変化はありましたか?
『クレヨンしんちゃん』は子供の頃から本当によく観ていましたから、決まった時はもちろん嬉しかったです。こんなに長く続いているシリーズのなかに入れるなんて、めちゃくちゃいいなあと思っていたんです。ところが、二言くらいの台詞かなと思っていたら、まさかのがっつり出演(笑)。映画のキーマンとして、しっかり出させてもらっています。僕はアニメが大好きで、声優さんのことをとてもリスペクトしているので、自分がその土俵で戦わなければならないということに、ものすごくプレッシャーを感じました。
Q:確かにゲスト声優って、一言、二言というイメージもありますが、役者さんによってはしっかりキャラ立ちしたものをやられますよね。
台本をいただいた時、「セリフがこんなにあるんだ」って正直びっくりしました。声に出して読んでみたら、ますます不安になりました。しんちゃんの声ってキャラクター性がすごく強いじゃないですか。それに対して、自分の声が浮いて聞こえたり、伝わらない感じになってしまうんじゃないかとか、いろいろ考え過ぎてしまいました(笑)。
もっとモテていいはずなのに!?
Q:セリフは一つでも多い方がいいのかと思っていました。声優は別でしょうか。
僕に声優さんのような技術とハートがあれば、そういう風に思えたかもしれないです。よく声真似をしてみたりするんですけど、本物には遠く及ばない。「海賊戦隊ゴーカイジャー」で変身後の声を当てたことはありますが、アニメに自分の声がはまるというのは、これまでなかった経験なので、想像ができなくて……。やっぱり想像がつきにくいものって、作るのが難しい。家も設計図があるから作れる。僕には声優としての設計図がなかったから、どうやったらセリフの表現を何倍にもふくらませることができるのか。逆にどうやったら駄目なのかも事前に知っておきたかった。失敗してみないと成長はないと思うんです。でも、ここが駄目なんだなって気づく、気づきの作業がもう本番なわけですから。まさしくデビューです。だから、心から「皆さん、お手柔らかに」と思っています(笑)。
Q:山田さんの声は特徴があってファンも多いですが、自分ではどう感じていますか?
そうなんですか。そういえば、「声がいい」って言われるんですよ。「女の人は耳で恋をする」って言うじゃないですか。だったら、もっとモテていいはずなんだけどなあ(笑)。実感はあまりないです。鼻声って言われます。鼻は通ってるつもりなんですけど、自分の声っていつも聞いているから、わからないですね。あと、明るい役をやっていると、トーンが高くなっていっちゃうんです。自分としては、國村隼さんや安田顕さんみたいな渋い声にあこがれます。
ぶりぶりざえもんに斬られてもいい!
Q:この作品は映画館に観に行きますか?
さすがに映画館に確かめに行きたいですね。自分が出ている作品を劇場に観に行って、周りにバレたらすごく気まずいじゃないですか。僕、それを1回味わったことがあったんです。作品を観に行くというより、劇場のスクリーンでどういう風に映っているのか、自分の課題を見つけるために行ったんですが、気づかれてしまい、お客さんの反応が気になってそれどころじゃなくなってしまいました。でも、この作品の聞こえ方は映画館でしかわからないと思うから、ぜひ劇場に行きたいです。
Q:いつも役づくりにストイックな山田さんですが、今回はどんな準備を?
体重の増減、髪型……何もできないわけです。表情でも、動きでも見せられない。衣装も決まっている。声だけで奥行きをどう出すのかという作業はやったことがなかったので、怖かったですね。事前に声優さんたちはどんな準備をなさっているんでしょうか。技術はすでにあって、現場ではハートでしゃべっている声優さんもいれば、息の使い方、音の上下、抑揚、音圧を使い分けている方もいるでしょう。いや、そういう人がほとんどなのか。それさえもわからない。『クレヨンしんちゃん』というポップな作品で、しかもゲスト声優で、ここまで悩む必要があるのかって思われるかもしれませんが、アニメが大好きだからなんです。声優さんのことをすごくリスペクトしているからこそ、「あ、俳優の子がやってるんだ」と思われるのではなく、「山田君、声優は初めてって聞いたけど、なかなかいいじゃない?」って思われなきゃ、僕にとって成功じゃないんです。みんなが『クレヨンしんちゃん』を楽しんでくれただけでは僕は終われないんです(笑)。この作品は僕にとっての戦い。どうにか防衛しなきゃいけないんです!
Q:さすが防衛大臣! きっと今後にもつながりますね。
声優さんとお仕事をさせていただける機会はなかなかないと思うので、「こういう俳優がいます」と覚えてもらうためにも、「すごい!」って思われるぐらいのレベルまでいかないとダメだと思うんです。「声優さんじゃないから」って諦められてしまうのは嫌。どの仕事に対しても常にそう思っています。「そういえばいたね」ぐらいの感じになるのではなく、ちゃんと作品に貢献したいですし、キャラクターは自分が生きる役ですから、忘れ去られるのではなく、記憶に残るものにしなきゃいけない。そのうえ、この作品が「すごく良かった」と評価されれば、万々歳です。そうじゃなきゃ、ぶりぶりざえもんに千歳飴で斬ってほしいくらいです(笑)。
自分を燃やし続けるのは悔しかったあの思い
Q:評価され続けているのに「もっともっと」と気持ちを燃やし続けられているのはなぜですか?
60点が合格ラインなら、60点でいいとは決して思いません。1,200点取れるかもしれないと思う。自分で100点が限度って決めちゃったら、100点以下までしかいけない。一瞬たりとも気を抜いちゃいけないと思うんです。自分の目の前の物事を動かすには、それぐらいしてないと駄目だと思う。周りに動かしてもらうのではなく、自分が周りを動かせるぐらいにならないと世界は変わっていかないって、自分で思っているからかもしれません。野球を辞めて、自分で自分の人生に蓋をしてしまったことがずっとネックになっていて、後悔してもしきれません。もっと頑張っていれば、いろんな可能性が広がっていたかもしれない。あの時、諦めてしまったから、もう諦めたくないんです。「この辺でもういいや」なんて、自分で自分を見切ったりしない。最後まで粘る。思考し続ける。考えていれば進化は止まらないと思うので、考えを止めるのを止める。何も変わらないまま、生きているなんて嫌じゃないですか。変化し続けたいんです。
Q:もうすぐ30歳なのに、フレッシュな感覚を持ち続けられてすごいです。
まだまだ全然です。若手俳優のなかでは年数いっているのかもしれないですけど、「特捜9」のメンバーは「30年やってます」という人たちばかり。これでもう大丈夫だなんて思っていたら、そこまでの人物にしかなれない。せっかくいただいたチャンスを「楽しんでやりました。よかったです」と終わらせるくらいなら、必死で悩みたい。今回の『クレヨンしんちゃん』みたいなポップな作品でも、「めちゃくちゃ頑張りました」って声を大にして言いたいんです。それが自分のポリシー。答えが『クレヨンしんちゃん』のテイストに合ってないくらいガチで本当にすみません(笑)。
昨年のNHKの連続テレビ小説「なつぞら」でのお茶の間ブレイクに続き、今年は「ホームルーム」「SEDAI WARS(セダイウォーズ)」で異例の2本同時連ドラ主演。さらに今回の声優デビューと人気俳優としての道を着々と突き進んでいるはずだが、本人はまだまだ演技に対して貪欲で、燃えていた。『クレヨンしんちゃん』のゲスト声優としても、微塵も気を抜かない徹底ぶり。それでこそ山田裕貴。今一番、熱い男。その真剣さに『クレヨンしんちゃん』ファンのみならず、アニメファンも一目置くはずだ。
(C) 臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2020
映画『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』は全国公開中