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『滑走路』水川あさみ 単独インタビュー

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『滑走路』水川あさみ 単独インタビュー

自分の気持ちを伝えることの難しさと大切さを知る

取材・文:天本伸一郎 写真:中村嘉昭

歌人・萩原慎一郎さんの遺作となった短歌集をモチーフにした映画『滑走路』。それぞれの立場で心の叫びを抱えた10代、20代、30代の三人の男女を中心に、現代社会を生きる若い世代の葛藤と希望を描く。本作で水川あさみは、子供を持つか否かの岐路に立たされる30代後半の切り絵作家を演じている。大庭功睦監督と話し合いながら作り上げた役柄や、コロナ禍を生きる現在の女優としての思いなどを語った。

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どこにでも起こりうる夫婦の話

水川あさみ

Q:翠という役を、どのように演じましたか。

すごく不器用な人だと思うんですよね。物事の捉え方や考え方も含め、人とは少しテンポが違っていたり、時間がゆっくり流れているような。わたしの普段の所作だと、器用な人に見えると監督に指摘されたので、そういうことを意識しつつ、ヒントを得ていきました。あとは、翠は切り絵作家としての自信もあるし、翠にとって切り絵は、誰にも譲れない大切なものだと思うので、そういう思いを持ちながら切り絵の練習をしました。

Q:思いがすれ違ってしまう、夫の拓己(水橋研二)との複雑な関係性については、どう捉えましたか。

夫婦というのは、日常生活をずっと一緒に過ごしているわけですから、誰にでも起こりうることだと思いました。特に翠みたいな人は、自分の思いや感情を相手に伝えるのが苦手なので、少しずつ心の中にひずみができていくという積み重ねがあったと思うんです。彼女を通して、自分が日々感じたことや思うことを、相手にちゃんと伝えることの難しさと大事さを、あらためて知るところがあったように思います。

Q:翠が拓己から頬を打たれるシーンは、衝撃的でした。ワンシーンワンカットで撮影されたそうですね。

拓己が唐突に手をあげてしまうような猟奇的な人に見えてしまわないかと水橋さんは危惧されていました。また、わたしが顔を叩かれた時の芝居でも受ける印象の意味合いが違ってくると思うので、水橋さんと大庭監督との3人でかなり話し合って、劇中の形になりました。

脚本と映画でガラリと変わった印象

水川あさみ

Q:世代の異なる3人の中心人物それぞれの物語が交錯する構成のため、難しい脚本だったのではないですか。

脚本を何回も読みましたし、監督ともクランクイン前から撮影中まで、結構お話をさせていただいた上で演じました。

Q:脚本と完成品では、どんな印象の変化がありましたか。

最初に脚本を読んだ時は、不穏な空気が漂っているというか。いろいろな人が心の奥底に持っている不安、悲しみ、絶望とか、そういう人にはちょっと見せたくないものを纏っているような印象でした。でも、完成した映画を観ると、自分が思っていたよりも全然重い空気感ではなく、皆に寄り添うようなテーマを感じられましたし、背中をポンと押してくれる、すごく希望が見えてくる作品になった気がします。

Q:翠の最後の決断を、ご自身としてはどのように感じましたか。

翠にとっては、大きな一歩を踏み出したなと思います。以前の翠なら、絶対に決断しないようなことですから。それが正解かどうかは、わかりません。でも、命と向き合わざるをえなくなった瞬間を経験した後というのは、ああいう選択をするだろうなと。すごく勇気のいる決断だっただろうけど、そうしてくれてよかったと思いました。

Q:観た人がさまざまな解釈ができる作品になっていますね。

構成的な難しさはありますが、はっきりと設定がわからなくてもいいのではないかと思っています。それよりも、全体の空気感とか雰囲気とか、包み込むような物語を感じて観ていただけたら。原作の萩原さんの歌集自体も、読み手によって印象が変わるような作品で、通じるところがあると思うんです。この映画もそうであったらいいなと、個人的には思っています。

不得意なものほど演じてみたい

水川あさみ

Q:今年は、『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』『喜劇 愛妻物語』『ミッドナイトスワン』『アンダードッグ』などの映画に出演され、幅広い役柄を演じていますね。求められる役柄や作品の幅の広がりのようなものは、実感されていますか。

去年から今年にかけては、少しそんな気もしています。作品に出会えることはご縁だと思っているので、こちらも(いろんな役を演じてみたいという希望を)発信しているからだとしたら、嬉しいですね。役者は皆、似通った役よりも、やったことのない役をやりたいと思いますから。

Q:女優という仕事に対するご自身の思いに、近年の変化はありますか。

基本的には変わらないですけど、これだけ長くやってくると、自分が得意な役や苦手な役が、少なからず出てきます。だからこそ不得意なものほどやってみるといったことを、意識的にやってきているところはあります。自分の目線が変わったのか、幅が広がったのかはわからないですが、似通ったような役をいただいたとしても、演じてみなければわかりませんし、いざやってみると全然違うと思えるようになったのかもしれません。

コロナ禍で感じた、見方を変えることの大切さ

水川あさみ

Q:コロナ禍で出演を予定していた舞台の中止もありました。舞台は苦手だけど、やらなければいけないものだと思っている、といったことを発言されてきていますが、そのスタンスは変わらないものですか。

変わらないです(笑)。自分にあぐらをかかないために、やらせていただいている感じです。だけど、いつか好きになる瞬間もくるかもしれないので、それを願っています(笑)。舞台と映像作品では表現方法が全く違うので、舞台でこれまでにない表現に臨むことで半歩くらい階段を上ったというか、表現の幅が広がったような気持ちにはなるんです。そのため、舞台に出たあとは、少し自信をもって映像作品にも取り組むことができている気がしています。

Q:舞台の中止は残念でしたが、新たなドラマに参加することもできたようですね。

例えば「love⇔distance」は、コロナの自粛期間があけてすぐに撮ったドラマで、自粛期間中にプロデューサーの方と「何かやりませんか?」とお互いに話している中で、いろいろなアイデアを持ち寄りました。コロナ禍の話ですけど、この時期だからこそ生まれた作品でしたね。前向きにやるしかないなという感じでした。

Q:そのコロナ禍を、どんな思いで過ごされていましたか。

当たり前のことが当たり前じゃなくなってきている世の中なので、今まで以上に自分と向き合わざるをえなくなる瞬間はたくさんありました。でも、それで不安がっているだけではしょうがないので、ピンチはチャンスじゃないですけど、ある意味で見方を変えて、新しい発想とかアイデア力を持つことの大切さというものも、あらためて感じました。


水川あさみ

映画『滑走路』は、物語の構造にちょっとした仕掛けがあるが、あからさまな表現や演出を避けているため、そこに気付かない恐れもある。しかし、水川も言うように、それがわからずとも、観る者の想像力をかきたてる豊かさがある。今年も映画公開が続いている水川だが、今後は山田孝之プロデュースの短編映画製作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)」にも監督として参加するなど、垣根を越えて意欲を見せている。

(C) 2020「滑走路」製作委員会

映画『滑走路』は11月20日より全国公開

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