『ヤクザと家族 The Family』綾野剛&舘ひろし 単独インタビュー
少年の心を持つ豊かさ
取材・文:浅見祥子 写真:高野広美
『新聞記者』の藤井道人監督と制作スタッフが再びタッグを組んだ新作『ヤクザと家族 The Family』で、綾野剛と舘ひろしが初共演を果たした。二人が演じたのは、少年期に柴咲組組長を救ったことからヤクザの世界へ足を踏み入れた山本賢治と、孤独だった山本に手を差し伸べて居場所を与える柴咲組組長・柴咲博。速すぎる時代の流れの中で次第に社会から追い込まれていく彼らの姿を、20年に渡って描く人間ドラマについて、綾野と舘が撮影の裏側と共に語った。
会った瞬間、惚れていることに気付く
Q:お二人は初共演ですが、会う前と後で、印象に変化はありましたか?
舘ひろし(以下、舘):いや思った通りでした。お芝居のしっかりした素敵な俳優さんだと思っていたので。
綾野剛(以下、綾野):ワクワクしていました。それでも舘さんのことは当然、長いこと画面越しに見て目に焼き付いていますから緊張もして。でもお会いした瞬間、自分が舘ひろしという男性に惚れていることに気付きました。
舘:ありがとうございます(笑)。
綾野:今僕らの時代は“牙を抜かれた男たちが化粧をする時代”だと思っていて。でも舘さんはまだ牙があるんです。生きていくたくましさやダンディズムのようなものが。俳優というのは時代によって求められるものが変わり、時代に合わせて変容していきますが、軽やかに渡り歩かれている。もっと言うと、時代は自分たちでつくるんだ、という生き様を、舘さんにお会いした瞬間に感じて。吸収できるものはスポンジのように吸い取ろうと思いました。
Q:柴咲組長を演じるにあたり、アル・パチーノを意識されたそうですね?
舘:『スカーフェイス』の時のアル・パチーノは眉毛から傷が入っていましたが、それほど大げさじゃない小さな傷をつけたいと思ったんです。でないと柴咲という組長が出てきても、ただのいいおじさんで終わってしまう気がして。
Q:山本の金髪や白いダウンジャケットは、どのようにイメージされたのですか?
綾野:直感です。
舘:あの白い衣裳は、血がちゃんと目立つためには? と考えたんでしょうね。
綾野:物事が塗り替えられないままの状態が続くのは不毛ですよね。山本のなかで白をつい選んでしまう潜在的な感覚とは? と考えた時、ある種の純真さ、まっとうなものへの憧れがあるんじゃないかと考えました。ザ・ノース・フェイスを選んだのは1999年当時、自分が高校生の頃に着ていたから。それにディッキーズのチノパンをはいて。でも中に柄物を着るのが山本っぽいところですね。
3つの時代を演じるために
Q:1999年、2005年、2019年と、3つの時代を演じる上で意識したことは?
舘:長い時間が流れたあと、屋上でゴルフをするシーンがあるんです。時間の経過を意識していただきたくて、髪を短くするという作業はしました。でも僕の場合は年を取っていますから、20年経ってもそれほど変わらない。綾野君は大変だったと思いますが。
綾野:金髪にしたり、黒髪に戻したり、最終的にばさばさの頭で出てきたり、ヘアメイクや各部署のスタッフさんに協力していただきました。あと後半で、舘さんとお会いした時に驚愕しました。佇まいで年月を感じさせ、もう自分で声を変えたりしなくて大丈夫だなと。
Q:映像でも時代の変化が表現されていましたね。
綾野:カラコレ(色彩補正)の仕方が微妙に違い、撮影するカメラも第1章は手持ち、第2章は(小さなクレーンのような)ジブ、第3章はフィックス(固定)で撮っていました。撮影部と監督に明確な狙いがあり、立っているだけで年を取って見える、という信頼感がありました。
舘:映像はサイズも照明も細かいところまで完璧です。研究されていて、まさに今の映像という気がしますね。
Q:一連のアクションも迫力がありました。
綾野:山本が車に轢かれたところですか? 3テイクしかしていませんが、痛かったです(笑)。
舘:あれ、3テイクしたの!?
綾野:ぶつかる側の踏み込みが甘くなってしまって。「轢いてくれ!」とお願いし、2、3回目はしっかり轢かれました。
舘:しかし、よくそんなことをやらせたね!
綾野:(笑)。3回目が一番怖かったです。2回目が痛かったので、またあれが……と思うと、目の前の道がデスロードに見えてくるんですよ。
舘:あの映像は凄いよ。ああいうアクションを3テイク撮るって大変なことなんです。1回目より2回目の方がどうしても力が入るし、3回目はもっと良くしようと事故に近づいていく。だからああいうアクションは一発で決めないと。
綾野:イメトレをするんですが、「どう魅力的に見えるか?」というのは全部捨てて、ケガをしない方法だけを考えますが、思った以上に車は重かったです。ぶつかって跳ね飛ばされている最中に「うわっ重いな」って。
少年の心を持ち続ける
Q:柴咲は山本を愛称で呼んで可愛がりますが、ご自身にそういう存在はいますか?
舘:僕はやっぱり渡さんに可愛がられました。今回の柴咲というのは渡哲也さんという人を映している気がします、演じていく中でモデルになったのは。温かく、格好いい人です。
綾野:僕は舘さんに可愛がってもらっています。前日もご一緒して明確に気付いたのですが、舘さんの前だと少年でいられます。「いろいろなことを聞きたい!」と子供みたいになれるんです。
舘:俳優にとって、少年の心を持つのは大事で。僕は70歳ですけれども、いつもどこかで少年の心を持ちたいと思っています。物事を純粋に見たいという願望があるんです。それで少年のような振る舞いをするのが好きなのかも。
Q:撮影現場で、舘さんは少年のような振る舞いを?
綾野:僕も少年だったので、一緒に楽しんでいました。
舘:映画を作るって、そういうことかもしれないな。みんなが夜遅くまで「こうしよう」「ああしよう」と言いながら、滑ったり転んだりして純粋にモノづくりに没頭していく。それってどこかで少年なんだよね。
今現在の集大成
Q:この映画に描かれた絆をどう感じましたか?
舘:この作品をやりたいと思ったのは、ヤクザというツールで家族を描いているから。今の時代、ヤクザをテーマに映画を撮るのはリスキーですが、反社を超えた物語があるなと。
綾野:そもそも映画は今回なら“藤井組”と言うように、組で作っていく。僕は結婚してないし子供もいないので、家族は現場しかない。そこでヤクザを通して家族を描く新しさと、失われつつある人と人との間の体温や相手をおもんばかる心、愛というものを体感できていました、撮影中にずっと。山本を生きていて、不幸だと思ったことは一度もありませんでした。だから目が死んでいなかったんです。血のつながりって、ないとダメですかね? 僕の今の主戦場は、血のつながりのある家族だけではないと思っています。
Q:出来た映画を観て、どんな余韻が残りましたか?
舘:時間を感じさせない、久しぶりにいい映画を観たなと。それでただただ綾野剛は凄い、という思いが残りました。あれだけのお芝居、というか山本という役を生きて、最後まで貫き通していたので。
綾野:嬉しいです。ありがとうございます。僕は自分が出た作品で魂がえぐられるとは思っていなかったので、立ち上がれなかった。この組はちゃんと家族で、誰ひとりそこに疑問を抱いていなかったのがよくわかりました。それで十分だなと。人に体温を与えるとか相手を思いやるとか、そういうことを当たり前にやっている、こういう世界が自分に合っていると素直に思いました。今現在の僕の集大成であることは間違いありません。
写真撮影中、綾野がスマホの画面を舘に見せて楽しそうに思い出話に花を咲かせたり、舘が綾野の肩に手を置くと、それに合わせて自然と二人でポーズを取ったり。あうんの呼吸がすでに出来上がっていた二人。俳優として明らかな進化を遂げた綾野と、揺るぎない存在感で映画の底を支えた舘。それぞれがこの作品の出来に確かな手応えを感じているのは、言葉の端々からも強く伝わった。
映画『ヤクザと家族 The Family』は1月29日より全国公開