『名も無き世界のエンドロール』岩田剛典 単独インタビュー
数年前だったら演じられないキャラクター
取材・文:折田千鶴子 写真:木川将史
小説すばる新人賞を受賞した行成薫の同名小説を映画化したサスペンス・エンターテインメント『名も無き世界のエンドロール』。主演の岩田剛典は、本作を「何度でも見返して欲しい作品になっている」と自負する。強い絆で結ばれた幼なじみのある計画に協力するため身を挺して裏社会に足を踏み入れる、どこかダークで謎めいたキダを演じた岩田は、そんな男の生きざまをどう捉えたのか。本作の撮影の裏側、近年の役幅の広がり、それに伴うパブリックイメージの変化などについて語った。
表と裏の顔がある主人公
Q:幼なじみ同士のキダは裏社会で、マコト(新田真剣佑)は表社会でのし上がっていきます。キダを演じることは、岩田さんご自身が希望されたそうですね。
とても巧妙な仕掛けがちりばめられている、このストーリー自体がすごく好きでした。キダという男は表と裏の顔があり、ごく限られた数人にしか本性を見せない。感情が見えづらい役でありつつ、ストーリーテラーでもあるキダという役に、すごくやりがいを感じました。映画も、何度でも見返して欲しい作品になっていますが、そんな世界観にキダとして飛び込めたのは、大きな経験になりました。
Q:たとえ幼なじみのためとはいえ、裏社会に足を踏み入れるキダに「なぜそこまで自己犠牲を!?」と思ってしまいました。
確かにフラットに考えると、たとえ親友の頼みであっても、僕も「そこまで尽くせるだろうか」と思ってしまいます。でも、すべての出来事が重なった結果、そういうことになったんだな、と納得できたというか。もし僕自身がキダと全く同じ状況に置かれたら、親友のためにそうしたかもしれないと思いました。
Q:なぜキダはそこまで尽くしたんでしょう?
あの時のキダは、生きる希望を見失っていました。そんなキダにとって、鬼気迫るようなマコトの気持ちに応えることが、精いっぱいの生きがいになったのではないか。第二の人生として、マコトのためにどんな苦労も厭わず努力する、自分の時間を使う、ということがキダの人生の一つの光となったんじゃないかなと。生きる意味やチャンスをマコトからもらっている、と感じながら演じていました。
キダの黒のビジュアルにはどんな意味がある?
Q:裏社会で「交渉屋」になって以降のキダは、黒いコートがトレードマークのようです。衣装など、キダの見え方としてこだわったことは?
黒のコートは、監督がいくつかピックアップしたものの中から、撮影初日に決めました。あまり生活感がなく、いろいろなものを懐に隠し持っているキャラクターでもあるので、シルエットがはっきり出ないものがいいだろうと。分かりやすくダークサイドに堕ちた、といったコントラストを付けてもいいんじゃないかというような話もしました。コートを羽織り、下も黒にしようと。また映像自体も、キダとマコトの学生時代はとても明るく、光を飛ばしたような撮影をしています。それに対して現代パートはノワール調になっている。時代背景もわかりやすく伝わりやすくなっているので、衣装も観客に伝わりやすいものを選びました。
Q:少し長めのヘアスタイルも、岩田さんとしては新鮮な印象を受けました。
実は当初、髭面でいきたいと思っていたんですよ。原作に映画『レオン』の記述があって、キダは殺し屋ではなく交渉屋ですが、ちょっとジャン・レノを意識というかイメージしたんです。「丸い色眼鏡をいくつか持ってきましょうか?」なんて提案も本気でしましたし(笑)。その他、髭を生やす案もありましたし、付け髭をいくつか用意したり、ウイッグを試したり……。2日かけてカメラテストを繰り返した結果、髪を伸ばしてボサボサなスタイリングにして、オシャレに無頓着な少しワイルドなビジュアルにたどりつきました。あのスタイルに落ち着くまでに結構、時間が掛かりましたね。
役幅の広がりに充実感
Q:昨年前後から『AI崩壊』『空に住む』、そして本作と、笑顔が封印された、どこかダークさを感じさせる役が続いていますね。
僕が求めているというよりは、自然とそういう役が多くなりました。なぜだろう(笑)。あまり考えたことがなかったけれど、そういう時期なのかもしれないですね……。確かに以前は、こういう役を演じるイメージが自分でも湧かなかったですから。おっしゃった3作ともキャラクターは全く違いますが、共通している“骨太な脚本における複雑なキャラクター”というのは、数年前の自分だったらやらせていただけなかったとも思います。大変ありがたいことにここ1、2年で役の幅の広がりを感じますし、すごく充実感があります。
Q:演じる役の変化に伴って、以前は「可愛い」と言われることも多かった岩田さんご自身のパブリックイメージも変わってきていると実感することはありますか?
実際、年齢的にも、もう可愛くないですからね(笑)。自分としては以前から、どう見られるかということに関してはこだわりがなくて。31歳の今もそれは変わりません。言葉の選び方には気を使っていますが、今は素のままメディアに出ることが多く、作っていないので、ありのままの自分というか。だからイメージやパッと見の印象は、自由に評価していただけたらという感じですね(笑)。
人生で最も恐れていること
Q:キダとマコト、そして2人の前に転校生として現れるヨッチ(山田杏奈)は、かけがえのない絆で結ばれた幼なじみです。岩田さんご自身、彼らのような幼なじみはいましたか?
今でも連絡をとり合っている、仲の良い幼なじみがいます。昔はもっとたくさんいましたが、時間が空いたり距離が遠くなると、比例して気持ちも離れていくものですね……。だから数は少なくなってしまいましたが、今も仲の良いその幼なじみが何かピンチに陥るようなことがあれば、僕もキダと同じように助けるんだろうなと思います。そう考えると、この物語には共感できるところがたくさんありました。
Q:今も脳裏に思い浮かぶ、幼なじみとの光景はありますか?
具体的にというよりは、小学校の頃に遠出して遊びに行った記憶が、キダとマコトとヨッチの海辺のシーンに重なります。子供時代、彼らのように夢を語り合ったりした記憶が、何となく僕の中にも残っています。
Q:劇中、「忘れられるのが一番怖い」というヨッチのセリフがあります。岩田さんにとって、生きる上で最も怖いこと、恐れているものは何ですか?
必要とされなくなることが怖いです。それは常に思います。表舞台に立つこの仕事は、需要がないと働けないので非常にシビア。だから常に敏感になるし、危機感も持っています。その恐怖は、状況が悪いときはより強く感じますが、自分がいい状況にあるときでも消えることはありません。とはいえ、僕は臨機応変タイプなので、完全に必要とされなくなる前に違うことをやり始めちゃうとは思います。僕、結構しぶといんですよね(笑)。
2020年11月10日に三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE はデビュー10周年を迎えたが、岩田は「節目と捉えがちだけど、自分たちの中で何か気持ちが変わるようなことはありません。常に現状打破でやって来ましたし、これからも常により質の高いエンターテインメントを目指すのみです」と力強く語っていた。その姿勢を貫いているからこそ、俳優としても一作一作と存在感を強め、より複雑で繊細な表現力を要する役を担うことになったのだろう。太陽のような笑顔を覗かせる学生時代と、笑顔なきノワールな現代パート。岩田の陰と陽の表現力が遺憾なく発揮されている。
(C) 行成薫/集英社 (C) 映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会
映画『名も無き世界のエンドロール』は1月29日より全国公開