『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』小野賢章 単独インタビュー
アムロとシャアの思いを受け継ぐプレッシャー
取材・文:成田おり枝 写真:高野広美
アムロとシャアの伝説の戦いを描いた『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』から33年。その世界を色濃く引き継いだ富野由悠季の小説が、映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』となってスクリーンに登場する。過酷な運命を背負う主人公のハサウェイを演じるのは、人気、実力を兼ね備え、数多くの作品で存在感を発揮している声優界の若きトップランナー、小野賢章。声優業は「まさかの連続」と話す彼が、ガンダムシリーズに参加した喜びやプレッシャー、人生の転機までを語った。
プレッシャーと格闘!
Q:いよいよハサウェイがスクリーンに登場します。ガンダムシリーズの主人公に決まった時の心境はどのようなものでしたか?
以前『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦』に参加させていただいて、そのときはガンダムパイロットではなく、コロニーの住人役でした。それでもやはり『機動戦士ガンダム』といえば誰でも知っていて、ずっと愛されている作品ですので、収録を終えて「『ガンダム』に参加したんだ」と、感動しながら家に帰った思い出があります。そして今回は主人公を演じさせていただけることになって。ものすごくうれしかったのですが、その喜びは一瞬で(笑)。タイトルの大きさに、どんどんプレッシャーを感じるようになりました。
Q:そのプレッシャーはどのように乗り越えていきましたか?
もう、やらなきゃいけない! という思いです(笑)。後には引けないという、ハサウェイと同じ状況ですね。キャスト発表のイベントがあって、そこで「ハサウェイ役、小野賢章」と出たからには、自分の持てる力をすべて出して、思い切りやるしかないと、がむしゃらに取り組みました。
アムロとシャアの意志を受け継ぐ男
Q:『機動戦士ガンダム』をはじめ、歴代作品に登場するブライト・ノアの息子であるハサウェイに、どのような印象を持ちましたか?
ハサウェイは、少年時代に『逆襲のシャア』で描かれたシャアの反乱で、アムロとシャアの思いを目の当たりにしているので、そのどちらの理念にも感銘を受け、それを受け継いでいるキャラクターだと思います。シリーズを観返したり、富野由悠季さんの小説を読んで、いろいろなイメージをしてアフレコに臨みました。アムロもシャアも、“地球を守りたい”という思いは同じ。そのやり方が違うわけですが、どちらが正解、どちらが間違いという答えを出すことは、とても難しい問題だと思います。僕自身、その答えにはなかなか辿り着けていないと感じましたし、だからこそハサウェイは苦悩し、葛藤する。その姿を見て、皆さんにも何か感じ取っていただけたらうれしいです。
Q:ハサウェイを演じる上で、どのようなことを最も大事にされたのでしょうか?
映画全3部作の第1部では、ハサウェイが裏の顔を隠して、ギギやケネスと交流する姿が描かれます。彼らの前では(反地球連邦政府運動を率いる)「マフティー」としての顔は隠しながらも、活動家としての信念は常に心に宿していようと思っていました。村瀬修功監督とのたくさんの話し合いのなかで「悩みながら選択していく青年らしさ、泥臭さを表現してほしい」という言葉がとても心に残っていて。年齢を重ねると「これ以上踏み込んではいけない」など理性が働くものですが、ハサウェイは突っ走ってしまうところがある。その泥臭さや、若さは大切にしたいと思っていました。
富野節の魅力を実感
Q:小野さんご自身、“突っ走ってしまう若さ”に共鳴する点はありますか?
いまだにあります。「明日も仕事なんだから、これ以上ゲームをやってはダメだ! と思ってもやってしまう!」とか(笑)。今、僕は31歳なんですが、アニメではまだ10代の役を演じさせていただくことも多いので、そういった若い感覚は、大切にしたいなと思っているものでもあります。
Q:ハサウェイを通して、世代を超えて語り継がれるシリーズや富野節の魅力を実感したことがあれば教えてください。
「ガンダム」らしさというのは、常に現実の世界に通じる問題を提起していることだと感じています。観るごとに、たくさんのメッセージを噛み締めています。あとは、セリフ回しもとても独特で魅力的。「~なのさ!」や「重力め!」というセリフなどは、「ガンダムの世界だ! 来た!」とワクワクしました。また、ヒロインのギギ・アンダルシアにも、「ガンダム」らしさが詰まっていると思います。ガンダムシリーズのヒロインは、男性が抗えない引力を持っている。ギギのミステリアスな雰囲気、自由奔放(ほんぽう)な言動は、『逆襲のシャア』のクェス・パラヤと重なる部分もあって、とても魅力的だなと思いました。
Q:ハサウェイは、連邦軍大佐のケネス・スレッグやギギと出会ったことで、運命の分岐点を迎えます。小野さんが、声優としての分岐点と思える出会いがあれば、お聞かせください。
一つ目は『ハリー・ポッター』シリーズでハリーの吹き替えをやらせていただけたことです。僕自身も多感な時期に、10年間にわたって演じさせていただきました。当時『ハリー・ポッター』は1年に1度か、1年半に1度は必ず新作が公開されていて。多感な時期というのはいろいろなことに興味が出てもおかしくない年齢ですが、「仕事をしている」という感覚よりも「演じるのが楽しい」と思いながら挑めたので、ハリーが僕を声の仕事に繋ぎ止めてくれたような気もしています。もしこのシリーズがなかったら、この仕事を辞めていた可能性もあったのかなと思ったりもするので、まさに僕の原点と言える作品です。
自らの分岐点、そしてこれから
Q:それは本当に大きな出会いですね!
また「黒子のバスケ」も大きな転機になった作品です。「黒子のバスケ」で黒子テツヤを演じさせていただき、そのおかげでアニメ作品に出演している小野賢章として、認めていただけたところがあると感じています。黒子を演じてからは、「小野賢章って、ハリー・ポッターも演じていたんだ!」と驚かれるようになったりもして(笑)。それ以降、どんどんアニメに出させていただけるようになったので、僕の分岐点を語る上では、外せない作品です。
Q:どちらも本当にすてきなキャラクターです。
そうなんです! 僕は本当にラッキーだなと思います。いつもすてきな作品、すてきなキャラクターに出会わせてもらっているなというのは、すごく実感しています。
Q:着実にキャリアを積み重ね、30代に突入されました。今、課題に感じていることはどのようなことでしょうか?
自分のやれる限りのことを突き詰めていきたいなと思っています。僕は自分のお芝居って、あまりうまいと思ったことがなくて。他の人のお芝居を見ていると「うまいな」「かっこいいな」と思うんですが、自分の芝居に関しては、なかなかそう思えない。それは僕自身の性格によるものなのかもしれませんが、自分の可能性を信じているとも言えるかもしれません。お芝居の世界って正解がないので、可能性を模索することをやめた瞬間に、作業になってしまうものだと思うんです。だからこそ考えることをやめず、キャラクターの掘り下げ、技術面に関しても、もっともっと突き詰めていきたいです。
Q:可能性を信じて進んでいた結果、ガンダムパイロットになれる未来が待っていたとは?
本当にまさかです! ガンダムパイロットになれるなんて思ってもいませんでしたし、子どもの頃に観ていた作品に出られたり、自分が遊んでいたゲームに関わることができたりと、声優業はまさかの連続。いろいろな未来が待っている仕事、そして突き詰めていくことのできる仕事と出会えて、とても幸せです。
その場の一人一人にさわやかな笑顔を向けてあいさつし、インタビュー部屋を後にした小野賢章。「監督の演出や周囲のキャストさんの出してくるものによって、お芝居が変わることもある。それもすごく面白いですし、アフレコでは柔軟性と瞬発力を大事にして臨んでいます」とものづくりの現場を大いに楽しんでいる様子。どんな質問にも熱っぽく答える誠実な姿も魅力的で、彼が全力を注いだハサウェイの活躍が楽しみになる。
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映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』は5月21日より全国公開