『ゴジラvsコング』小栗旬 単独インタビュー
その夢に理由はない
取材・文:イソガイマサト 写真:日吉永遠
ハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』と『キングコング:髑髏島の巨神』の世界観がクロスオーバーする、「モンスター・ヴァース」シリーズの最新作『ゴジラvsコング』。タイトルそのままに、映画界を代表する2大モンスターが激突する本作で、前作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』で非業の死を遂げた芹沢猪四郎博士(渡辺謙)の息子・芹沢蓮役に挑み、念願のハリウッド映画デビューを果たした小栗旬。ハリウッドの撮影現場に初めて立った彼が、そこで感じた思いや試練、その視線の先にある未来について熱く語った。
ハリウッドに飛び込みたかった
Q:小栗さんがハリウッド映画に出たいと思うようになったのは、おいくつぐらいのときですか?
中学生のころです。そのころは、テレビの「金曜ロードショー」や「日曜洋画劇場」で『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)や『ゴーストバスターズ』(1984)、『グーニーズ』(1985)といったハリウッド映画が多く放送されていたので、ひたすらそういう作品を観ていました。『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)や『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)なども大好きで、ずっと観ていたし、ハリウッド映画の夢のような世界は実際にあるものだと信じているような子だったので、自分もいつかその世界に飛び込んでみたいとずっと思っていたんです。
Q:そのころ憧れていたハリウッドスターは?
ハリソン・フォードはすごく好きだったし、トム・ハンクスももちろん好きでした。あと当時は『ダイ・ハード』(1988)みたいなアクション映画が大好きだったので、ブルース・ウィリスもカッコいいな~と思っていました(笑)。
開放的で刺激的な現場
Q:『ゴジラvsコング』で子供のころからの夢がかなったわけですが、ハリウッドの撮影現場はいかがでしたか?
すごく楽しかったです。いや、確かに最初はちょっと緊張していたのかもしれないけれど、何度もテイクを重ねるので、そのうちに最初の緊張や、ちゃんとできるかな……といった不安もなくなって。共演者のみんなが目の前でどんどんシーンを作っていくので、とにかくやるしかなかったし、自分もその中に飛び込んで演じるのが本当に楽しかったんです。
Q:オーストラリアの撮影現場で小栗さんをお見かけしましたが、のびのびとされていて自然に笑顔がこぼれているような印象でした。
それぐらい楽しかったんです(笑)。開放的な気持ちになれたし、それでいて刺激的な現場じゃないですか! しかも、みんなを引っ張っていかなければいけない立場ではなく、いわば自分がいちばん素人みたいな、誰も期待していないような立ち位置だったから、そうした環境もすごくよかった。自分がいまできることを100パーセント出すしかないということだけを考えて現場に臨むことができて、それが最高に気持ちよかったんです。
Q:撮影に入る前に、芹沢博士を演じていた渡辺謙さんにお会いになったそうですね。
謙さんが参加されてきたシリーズに出演するので自分から連絡をとって会わせていただきました。ただ、今回の現場にも謙さんのことを知っているスタッフの方がたくさんいて、その人たちが謙さんとの仕事をとてもいい思い出として語ってくれたから、謙さんはみんなに愛されながら仕事をしていたということがわかりました。
英語の大切さを痛感
Q:小栗さんが今回の撮影で一番苦しんだことは?
やっぱり英語ですね。英単語も本当に知らなかったし、英会話もずっと避けてきたから、今回も、俺はなぜこんな低レベルなんだろう? というところから始まって、勉強してこなかった自分をものすごく悔やんだ時間もありました。
Q:撮影現場でも英語の壁にぶち当たることがあったんですか?
ありました。結局、最後の最後で発音やイントネーションの問題をいつも指摘されるので、それにいちばん苦労しました。例えば関西弁で「何、言っとんねん」って言わなければいけないところを、前の方にアクセントを置いて「何を言っとんねん」って言ってしまう感覚に近くて。その微妙な違いを現場で指摘されても、俺の英語力ではさすがにどうすることもできないから、毎回、どうすりゃいいんだ~? って頭を抱えていました(笑)。
Q:それでも、あの巨大なセットの“あの椅子”に座ったときは興奮したんじゃないですか?
あのセットを最初に見たときはやっぱりテンションが上がりました。子供のころにのぞいてみたいと思っていた世界がそこに広がっていましたから。ただ、あの椅子がけっこう座り難くて。そのことを周りのスタッフに英語で上手く伝えられないことがいちばんしんどかったですね(笑)。
Q:自分専用のトレーラーハウスが用意されるのもハリウッドならではだと思うんですが、車内に置いてもらうものは何かリクエストされましたか?
基本的には何もリクエストしてないし、この先、同じようなことがあっても、たぶんリクエストをすることはないと思います。自分の場合は、現場でどうしても必要なものなんてないから、あんなものが用意されているだけでもハッピーで。だって、常に温かいものが食べられますから。それだけで、全然違います。人間として、当たり前のことが当たり前にできていれば現場はハッピーだし、逆に冷たい弁当が続くと、やっぱりだんだん元気がなくなりますよ。
海外で活躍する切符を手に入れた気がする
Q:今回の『ゴジラvsコング』でハリウッドの撮影現場を経験されて、活動の場をグローバルに広げていきたいという気持ちがより強くなったのでは?
自分の興味のある作品や参加してみたいと思うプロジェクトだったら、規模や内容に関係なく、どこへでも出かけていきたいなって、ここ数年ばくぜんと思っていたんです。そういった意味では、今回その入口に立てたのかなと思っていて。ハリウッド映画に参加したという事実が、ある種の切符になるような気もしているし、ここから動き方も変わってくるのかなと思っています。
Q:そのモチベーションは、どこから来るものですか? 日本ではできないことがあるのでしょうか?
向こうでしかできないものがあるのかないのかの定義はちょっとわからないし、自分の場合は、少年・小栗はそこに行きたかったんだよねっていうことでしかなくて。ハリウッド映画に出たいと思っていた昔の自分が、何かのめぐり合わせでそこに辿り着いただけだから、「なぜ、そうするの?」って聞かれても、「いや、出たかったんだ」としか言えない。それだけの話。いまは何でも理由が求められるけれど、僕からすると、特にそこに理由はない。ただ、不思議な人生だなとは思いますね(笑)。
Q:いずれは、子供のころに大好きだったハリウッドのアクション映画にも出演してみたいですか?
そんなことができたら本当に最高ですね。でも、それもめぐり合わせだと思うし、自分で勝ち取らなければいけないものかもしれない。ただ、いまの自分はそんなことを想像する前にやらなきゃいけないことがいっぱいあるので、それを全力でやってからじゃないと、何も始まらないと思っています。
一昨年のオーストラリアでの充実した撮影の日々を、楽しそうに振り返った小栗。彼がいちばん印象に残っている東宝の怪獣映画のタイトルは『ゴジラVSビオランテ』で、いちばん好きなゴジラ以外の怪獣はキングギドラなのだとか。どうやら、あの本当の生物のような生々しい動き、それを創造した日本の特撮チーム(操演部)のレベルの高さも気に入っているらしい。そして「今回のゴジラはすごくカッコいいと思います」ときっぱり!「マイク・タイソンみたいな顔をしてますもん」と語るその無邪気な笑顔は、まるで少年のようだった。
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映画『ゴジラvsコング』は7月2日より全国公開