『映画 太陽の子』柳楽優弥 単独インタビュー
戦争を知らない世代が伝えていく意味
取材・文:磯部正和 写真:高野広美
2020年8月にNHKで放送されたドラマ「太陽の子 GIFT OF FIRE」に異なる視点が加わり完結した『映画 太陽の子』。太平洋戦争末期に京都帝国大学の学生で、物理学研究室に所属し、原子核爆弾の研究開発に心血を注いだ科学者・石村修を演じた柳楽優弥。戦争というシビアな題材をテーマにした作品に参加することに「怖さがあった」という柳楽が、作品を通じて感じたこと、さらに俳優として新たなステージに向かう思いなどを語った。
いま参加すべき作品という強い感情
Q:太平洋戦争の時代を背景にした本作ですが、どんな思いで参加されたのでしょうか?
最初に、脚本が素晴らしいなと思いました。僕ら戦争を知らない世代が、しっかりと戦争と向き合い、それを伝えていくことに意味を感じましたし、その時代に生きた人を演じる覚悟みたいなものもありました。感覚的ですが「いま参加するべき作品」という思いが強く湧いてきました。
Q:黒崎博監督とは、どんなことをお話ししたのですか?
戦争というと例えば銃撃戦や戦闘シーンが中心になりがちですが、そうではなくて、戦時中でも懸命に生きた若者たちや家族の姿を描くことが、とても大切だとおっしゃっていました。
Q:修という人物をどう捉えたのでしょうか?
京都帝国大学に在籍する研究者ということで、僕とはまったく違う人生を歩んでいる人だったので、かなり難しいなという印象はありました。『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』や『ビューティフル・マインド』など、いろいろな映像を観ました。ただ、事前に役づくりをしたところで、太刀打ちできる役ではないと思ったので、現場で一つずつシーンを重ねていくなかで、修っぽさを作っていければと思っていました。でもやっぱり怖かったですね。
Q:怖いというのは?
第二次大戦中に生きた人たちを描いた作品を、日米合作で作るというのは、アメリカの人から見たらどのように捉えられるのだろうという怖さはありました。もしかしたら、いろいろ言われるのかな……とか。自分のなかでは、とてもチャレンジングな役柄であり、作品でした。
修の変化に戦争の怖さが表れている
Q:修という難役に挑んで、どのように感じましたか?
フィクションであり、あくまで疑似体験なのですが、一つの戦いに参加したような気分になりました。ほぼ順撮りだったということも大きいのですが、後半になるにつれて、もともと純粋な気持ちで科学に向き合っていた修が、戦争によって、純粋さが狂気に変わっていく感じが、リアルに怖いなとも感じました。その変化に自分が気づいていないことも、ものすごく恐怖ですよね。
Q:確かに修が研究にのめり込んでいく姿は、戦争の怖さを実感するシーンでした。
ある監督が以前「戦争映画を作るとき、(戦争に対して)拒否反応が起こるような怖いシーンがなければ、撮る意味がない」と話していたのですが、その意味では、戦いの激しい描写がある作品ではないですが、戦争の怖さは実感できるのかなと思います。
有村架純さん、三浦春馬さんと築いた信頼関係
Q:戦争の怖さと同時に、厳しい時代に向き合いながら懸命に日常を送る人たちの姿も、作品に趣を与えていますね。
そうなんですよね。辛い状況でも一生懸命笑顔で日々を過ごそうとしていた人は絶対いたと思うんです。そこには恋や青春もあったはず。そういうところを戦争と共にしっかり描くことで、作品に深みが出ていると思います。
Q:修が密かな恋心を寄せる幼馴染・朝倉世津役の有村架純さん、弟・裕之役の三浦春馬さんとのお芝居はいかがでしたか?
春馬くんは、僕が12~13歳ぐらいのときから、作品やオーディションで一緒だった仲だったので「はじめまして」というよりは、しっかりと信頼関係が築けていて、心強かったです。架純ちゃんも、過去に何回か共演させていただいていたので、良い距離感のなか芝居をさせてもらいました。みんな「良い作品にしよう」と一生懸命に向き合っていて、とても良い時間を過ごせました。
Q:縁側のシーンや、海のシーンなど3人のお芝居はすごく印象的な場面が多かったですね。
海のシーンは、ドラマを観てくださった方からも「すごく印象に残っています」と声を掛けていただくことが多かったです。あのシーンは夕日が沈むときの、ワンテイクでしか撮れないシーンで、前日にリハーサルをして意見交換をしたのですが、本番は舞台の初日のようなものすごい緊張感でした。本当に張り詰めたレベルの高い撮影になったと思います。
Q:完成作をご覧になっていかがでしたか?
生きるって簡単ではないんだなと。でも強く生きなければと改めて感じました。作品ができあがったあと、春馬くんの信じられないことがあり、僕自身も大きな動揺がありましたが、完成披露などを行い公開が近づいてくると、春馬くんに笑われないように、しっかり前に進んでいかなければいけないという気持ちが強くなってきました。
柳楽優弥流、30代の過ごし方!
Q:先ほど「いま参加すべき作品」と話されていましたが、近年、出演作品が硬軟自在でとても充実しているように感じられます。
20代後半にこの作品のお話をいただいたのですが、その時期は割と脇役として作品に参加することが多かったのですが、急にこうした硬派なテーマで主演としてお話が舞い込んできたことに、ドキドキするとともに、巡り合わせみたいなものを感じました。この年齢になって、ようやくバランスが取れてきた気がします。
Q:いい流れになってきているという実感はありますか?
自分ではあまり意識はしていませんが、コロナ禍で休みがあったことで、自分のなかでメンタルの調整ができたのかなと思っています。もちろん、撮影が延期になってしまう作品もあり、それはショックだったのですが、一方で、開き直って「前向きになろう!」みたいな感覚もあり、気持ちが楽になったんですよね。
Q:では30代が楽しみですね。
そうですね。これまではどうしても海外の映画祭に行きたいという気持ちが強かったのですが、追いかければ追いかけるほど逃げていく感じがしたので、いまはちょっとその気持ちを放っておこうと思っているんです。自然と意識せずいることで、またチャンスが来るのかなと。
Q:海外の映画祭というのは、柳楽さんにとってはやはり魅力ですか?
10代のときに「絶対また三大映画祭に行く」と思ってしまったので、その気持ちを昇華させないと気持ち悪いなというのはあります。でも、いまは頭のなかから抜いて、自分が本当にやりたい作品に没頭することを最優先に考えています。
以前から、インタビューや会見などで“スーパームービースター”になりたいと公言していた柳楽優弥。どんなイメージなのか聞くと「僕は昭和の大俳優、高倉健さんや勝新太郎さん、石原裕次郎さんが大好きなのですが、その時代を象徴するような人って憧れますよね」とはにかむ。圧倒的な存在感でファンを魅了してきたスーパームービースターだが、同時に作品に真摯に向き合う誠実な姿勢も、柳楽の理想とする俳優像だという。「ちょっとずつ、具体的に目に見えるような形で、スーパームービースターという実像を築いていきたい」と語った柳楽。30代、40代とどんな作品を重ね、スーパーな映画俳優になっていくのか……楽しみが尽きない。
『映画 太陽の子』は8月6日より全国公開