『パウ・パトロール ザ・ムービー』安倍なつみ 単独インタビュー
期待に応えたいと思う気持ちが自分を動かす
取材・文:成田おり枝 写真:高野広美
テレビアニメシリーズ「パウ・パトロール」の劇場版『パウ・パトロール ザ・ムービー』で、吹き替え声優に抜てきされた安倍なつみ。ダックスフンドのリバティを、躍動感たっぷりに演じている。2児の母でもある安倍は、家族揃ってシリーズのファンだったそうで、今回のオファーに感激しきり。「パウ・パトロール」の世界に飛び込んだ喜びと共に、「完璧を求めるタイプで、人に頼ることが苦手だった」という彼女が母になって変化したこと、モーニング娘。という最高の仲間と過ごした日々について、朗らかな笑顔で明かした。
自分にとって挑戦だった吹き替え声優
Q:家族揃って大好きな「パウ・パトロール」の劇場版に声優として参加できた心境は?
子供たちと観ていた作品でしたので、まずは大きな驚きがありました。すごくうれしかったですし、「映画の中からママの声がするキャラクターが出てきたら、子供たちはきっと喜ぶんじゃないかな?」という気持ちも芽生えて、「ぜひやらせていただきたい」とすぐに答えを出すことができました。子供たちにも「『パウ・パトロール』にママが出るんだよ」と伝えたら、「ママが!?」とすごく驚いていました(笑)。
Q:アフレコ現場に向かう上では、緊張もありましたか?
とても緊張しました。久しぶりにブースに入って、“表現する”という場に立ったとき「自分にどこまでできるんだろう」とドキドキして。自分にとっても挑戦だったと思います。同時に声をかけていただいたからには、「期待以上のもので応えたい」という気持ちもありました。また我が家でも、子供たちは画面に釘付けになって「パウ・パトロール」を楽しんでいます。そういった姿を間近で見ているので、「『パウ・パトロール』ファンの子供たちが楽しみに待ってくれている。きっと夢中になって観てくれる」と思うと、吹き替えに挑む上でも大きな励みになりました。
大変だったカーチェイスシーン
Q:リバティは、元気いっぱいで好奇心旺盛な女の子。安倍さんのお芝居も見事なハマりぶりで、とても可愛らしいキャラクターになっています。リバティには、どのような印象を持ちましたか?
私はあんなにリーダーシップのあるタイプではないですが、こうと決めたら「とことん頑張りたい!」と張り切ってしまう部分は、私と似ているなと思いました(笑)。声のお仕事には以前も挑戦したことがあるのですが、ここまでエネルギッシュでパワフルな役は初めて。とても難しい役どころでもありました。リバティがカーチェイスをするシーンはテンションが最高に高くて、ものすごく早口で話すので、大変だったシーンでしたね。
Q:カーチェイスのシーンは、まさに子供たちが夢中になって観るような場面ですね。
そうなんです! まるで自分が運転しているかのような迫力がありますよね。早口で話す必要があり、さらに絵の動きに合わせるのは難しいことでもありましたが、喜んでくれる子供たちの姿を想像することができたので、苦労とも思わず、楽しみながら頑張ることができました。
とにかくイライラしない!子育てのモットー
Q:本作は大事なメッセージがたくさん込められた作品でもあります。安倍さんが、本作を通して「お子さんに伝えたい」と感じたことはありますか?
何か問題が起きたときに、一人ではなくて、仲間と団結しながら乗り越えていくという様子。そして諦めない心も描かれています。大人としてもグッとくることばかりで、こういったことを楽しみながら、子供たちに伝えられるのは、本当にすばらしいことだなと思いました。ぜひご家族で楽しんでいただきたいですし、本作を大きなスクリーンで観ることが、我が家にとってもこの夏の楽しみなんです。
Q:安倍さんが子育てでモットーとしていることは?
とにかくイライラしないこと(笑)。日々「あちゃー!」と感じることや予測できないことの連続なので、イライラしていてもしょうがない。トラブルが起きたときにイライラして、それを引きずってしまうのもイヤですし、子供たちがシュンとした気持ちになってしまうのもイヤなものですよね。違う言い方をしてみたり、なんとか笑って乗り越えられるように、工夫しています。
Q:男の子2人の子育ては、きっと目が離せない日々ですよね……。お母様になったことで、心境に変化があったことがあれば教えてください。
ものすごく変わったと思います。私はいつも完璧を求めてしまうタイプだったのですが、子供が生まれてからは、かなり妥協を覚えました(笑)。日々何が起きるかわからないですし、完璧を求めて「こうだ」と決めつけるよりも、「寄り道もいいかな」と思えるようになりました。「まあ、いいか」と思わないと次に進めないですし、「こういうこともあるよね」とよく口に出して言っているので、最近は5歳の長男が「ママ、こういうこともあるよね」と私の真似をするようになって! やっぱり、ちょっとしたことでも子供は真似をしたりもしますし、日々の積み重ねで人格や人間性が形成されていくのかなと思うと、叱り方にも注意しないといけないなと感じています。
Q:もしパウ・パトロールが来てくれるとしたら、どのようなことを依頼したいですか?
朝の出発前のすべてに、手を貸していただきたい(笑)! 時間のない中、「おむつ替えたくない」「着替えない」などと言われると、どうしたらいいんだろうって困ってしまうんです。自分の支度もしなければいけないし、支度ができたと思ったら、下だけパジャマをはいていた……なんていうことも、よくあるんですよ(笑)。そういうときは「さあ、問題です。ママのどこがおかしいでしょうか?」とクイズにしちゃったりしています。決して余裕はないけれど、どんなことも楽しく笑って乗り切りたいと思っています。子供たちだって、笑顔でいるのが一番ですから。
モーニング娘。の仲間と一緒だったから、見られた景色があった
Q:本作では、パウ・パトロールのメンバー・チェイスがある壁にぶち当たります。モーニング娘。として、トップアイドルの道を走ってきた安倍さんですが、壁を乗り越える上で大切にしてきたことはありますか?
私は“自分で乗り越えよう”と思ってしまうタイプで、それはあまりよくなかったなと思っています。自分の中で戦って、自分の中で解決して、そうやって頑張ることしか知らなかった。“誰かに頼る”ということが苦手で、頼り方もわからなかったんです。そういったときにパワーをくれたのは、やはりメンバーや周囲の人たち、そしてファンの方々の存在でした。メンバーと日常的なささいな会話を交わすだけで、元気になれることも多かったです。
Q:パウ・パトロールのメンバーと同じように、仲間の存在に助けられていたのですね。
本当にそう思います! 自分ひとりで解決しようと思っても、それは結局、解決になっていないんですよね。当時は、プレッシャーという言葉を超えていたような状況でしたし、今振り返ると、絶対にひとりでは乗り越えられなかったと思うことばかり。やっぱり、ひとりでできることには限界があるし、グループだったからこそ、みんなで「頑張るぞ!」と力を合わせて、気持ちをひとつにして挑んだことで、見られた景色や世界がいっぱいあります。本作を通しても、仲間と一緒だから、大きなことも成し遂げようとする力が生まれるんだと実感しました。また今もそうなのですが、「期待に応えたい」と思う気持ちが、いつも自分を動かしてくれます。
Q:そう思えるようになったきっかけは?
それはすべて、ファンの方々の声援のおかげです。ライブや舞台など、生でファンのみなさんと会える空間では、ダイレクトにみなさんの感動や笑顔を目にすることができました。届けた先にファンの方々が待っていてくれて、「こんなふうに、誰かの力になれることがあるんだ!」と感じられることは、これ以上ない喜びです。誰かの心を動かすことができるお仕事って、本当に素敵なものだなと改めて思います。
感動を届ける――。トップアイドルの経験を通して、その喜びを心から実感している安倍なつみ。「期待に応えたい」と情熱を注いだリバティは、すばらしいハマり役となっている。本作を通して“仲間の大切さ”を改めて噛み締めたという彼女だが、メンバーと共にストイックにまい進してきた日々は、かげかえのない宝物。さらに母になって大らかさも身につけた彼女は、眩しいほどの“なっちスマイル”を見せていた。
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映画『パウ・パトロール ザ・ムービー』は8月20日より全国公開