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『孤狼の血 LEVEL2』松坂桃李 単独インタビュー

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『孤狼の血 LEVEL2』松坂桃李 単独インタビュー

この役は自分の映し鏡

取材・文:斉藤博昭 写真:尾鷲陽介

白石和彌監督が柚月裕子の小説を映画化し、日本中に衝撃を与えた『孤狼の血』(2018)。広島での暴力団同士の血で血を洗う抗争を非情な手段で終わらせたのが、松坂桃李演じる若き刑事・日岡秀一だった。あれから3年。その続編で映画オリジナルのストーリーが展開する『孤狼の血 LEVEL2』で、松坂が再び同役に挑んだ。前作で役所広司が演じ、殺害された先輩刑事・大上の遺志を受け継ぎ、違法な捜査も厭わず裏社会を取り仕切る日岡=松坂桃李の姿に、誰もが目を疑うことだろう。日岡の3年間の変化に、彼はどう向き合ったのか。

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日岡は3年を経てどう変わった?

松坂桃李

Q:日岡の「その後」が語られるこの続編は、いつ製作が決まったのでしょう。

1作目の公開初日(2018年5月12日)に東映さんから「続編やります」と知らされました。かつての『仁義なき戦い』のような「ザ・東映作品」をさらに世に送り出す気概もあって、純粋に喜びましたね。ただ、まだ台本もできあがっていなくて、「うれしいけど、どうなるんだろう……?」というのが率直な思いでした。

Q:設定は前作から3年後ということで、日岡はその間、どう変化したと受け止めましたか?

前作で日岡が作り出した正義が、一回、大上刑事(役所広司)にかき乱されました。土足で踏みにじられ、打ちのめされた感覚で、そこが『LEVEL2』の起点です。日岡には、大上さんを父や師のように模倣しながら、「あの人とは違うやり方で」という反骨心もあると思うんです。さらに、大上さんの命を奪ったヤクザ側への復讐心を拠り所に、役を俯瞰してとらえた結果、大上さんの呪縛にもかかって、“ミイラとりがミイラになる”日岡の道を表現できたらと思いました。

Q:日岡のキャラクターは前作と大きく変わった印象もあります。

確かに見た目も様変わりしていて、信念も強くなっています。ただ、迷いや若さといった、いわゆる“青い”部分もある。だからこそ重要な何かを見落としたり、大きな後悔を経験したりする。未熟な部分も残っているんじゃないでしょうか。

Q:松坂さんご自身は、最近の活躍を見ると、俳優として未熟な部分はもう克服しているようですが……。

いやいや、僕もまだ30年ちょっとしか生きていないので、未完成中の未完成ですよ(笑)。知らないこと、経験していないことがたくさんあります。だからその分、日岡は自分の映し鏡のようでもあり、「彼の立場ならこういう迷いも抱えるだろう」と考えられたような気がします。そしてそこには、前作で役所さんとタッグを組んだ経験も生かされました。

“飢え”を表現するために減量

松坂桃李

Q:役づくりで減量したそうですね。

日岡が何かに飢えている感じや、地べたを這いつくばっているようなニュアンスがスクリーンに出ればいいと思い、減量しました。ただ、2キロくらいなので役づくりというほど大げさなものではないです。

Q:今もすっきりとした印象なので、その体重をキープしているのですか?

さらに3~4キロ落としています。次の作品の準備のためですね。

Q:2キロとはいえ減量しての撮影は、体力的にキツくなかったですか?

確かにアクションシーンでは、すぐ息切れしていたかも。やたらめったら減量するものじゃないですね(笑)。

Q:鈴木亮平さん(日岡と敵対する組長・上林役)との対決シーンの撮影に時間がかかったのも、そのせいですか?

いえ、あそこはアクションの手数(てかず)も多くて、車がひっくり返ったりするので、撮影自体が複雑だったんです。クリアしなければいけないことがたくさんあり、あの対決だけで3日間もかかりました。

Q:映画の終盤、日岡のまったく違う一面も表現されています。

上林との対決など、『LEVEL2』は日岡にとっては負け戦(いくさ)の一面もある物語です。それをふまえて、心が折れ、魂の炎も消えつつあった彼が、「ある物」を目にして、少し前の自分に戻り、再び灯(ともしび)がともる感覚を表現しました。もし3弾が作られるなら、そこにつながってほしいという思いも込めました。あのシーンは、前夜に亮平さんとの対決を撮り、ホテルに戻って3時間くらいしか寝ていなくて、翌朝、疲れ切った状態で演じたのを覚えています。

監督と話す時間も長くなった

松坂桃李

Q:2作目ということで、自らいろいろアイデアも出したそうですね。

監督と話す機会が増えたので、3年経過した時間を表すために、日岡の服装や髪型などについて相談できました。

Q:そうしたアイデアの効果も含め、完成した作品は思った通りの仕上がりになっていましたか?

ここまでエンターテインメントになっているのは、ある意味、衝撃でした。前作には“昭和の香り”がたっぷり残っていて、その世界が好きな人に喜んでいただけたと思い、今回も演じる側としてはそういうムードを引き継いだつもりでした。でも今回は、より幅広い層に届く内容になっているように感じました。これは監督の手腕で、まさに“レベル2”に進化した感じですね。

Q:白石和彌監督の演出は独特なのでしょうか。

しっかり現場を整え、役者陣が萎縮しないように解放してくれます。伸び伸び演じられる感覚ですね。だから、新キャストの方々をはじめどんな俳優さんもエネルギーを爆発させられるんです。皆、撮影が終わると気持ちいいお風呂に入った後みたいに、帰っていきますよ(笑)。ランナーズハイ(※ランニング中の高揚感、多幸感)のように、満足した疲れ方をしている皆さんの表情を目にすると、白石監督の現場らしいなと感じます。

Q:『孤狼の血』2作も含め、白石監督とは3回目のタッグです。

『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)の時から、楽しんで演じたり、普段できないことを試すシチュエーションが多かったです。エネルギーの解放の仕方が、他の現場と違うのかもしれません。自由にやらせてもらいつつ、やりすぎる部分は制御してくださるので、安心して演じられます。

役所広司から受け継いだライター

松坂桃李

Q:前作のクランクアップから大切にしていたという大上刑事の遺品であるライターは、続編が終わってどうする予定ですか?

役所さんにいただいてから、常に持ち歩いています。自分の中では“御守り”のようなものですね。いまだにどの現場に行く時もカバンに入れています。

Q:今後も『孤狼の血』はシリーズとして続いていきそうですか?

『LEVEL2』で、ある種のシリーズ感ができあがったので、3作目もやった方が面白いでしょう。近年の日本映画で、汗や雨、血の匂いがここまで漂ってくる作品は貴重ですから。(「凶犬の眼」「暴虎の牙」と続く)原作シリーズでは主人公が変わる作品もあるので、そういう方向もいいですよね。

Q:主人公が変わってしまうとしたら、役所さんからのライターは!?

それも作品の意図として、誰かに受け継いでいただけたら最高です。


松坂桃李

多忙な日々が続いているにもかかわらず、こうした取材にも、常に真摯に向き合う。誠実で的確な受け答えは、インタビューの場数を踏んだ「経験」にもよるものだろうが、松坂の人柄なのだと実感する。『LEVEL2』での日岡は、そんな素顔の印象とはまったく別方向の過激さなので、俳優・松坂桃李の真骨頂とも言える。多くの人に愛される誠実さと、こうしたギャップのある役へのチャレンジ精神で、日本映画界における彼の存在感は今後も揺るぎそうにない。

©2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

映画『孤狼の血 LEVEL2』は8月20日より全国公開

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