『岬のマヨイガ』芦田愛菜 単独インタビュー
17歳は大人でもあり子供でもある
取材・文:成田おり枝 写真:高野広美
子役からキャリアをスタートさせ、成長するごとに輝きを増している女優の芦田愛菜。児童文学作家・柏葉幸子の原作をアニメーション映画化した『岬のマヨイガ』では、主人公・ユイの声優に抜てきされ、自身と同じ年齢である17歳の少女の葛藤や変化を見事に表現している。声優としても出演作を重ねて今や国民的女優となった芦田だが、「17歳は、大人でもあり子供でもある、難しい年齢」とにっこり。「今を楽しみたい」という彼女が、声優業の醍醐味とともに、“大人になること”への思いや17歳のリアルな気持ちを語った。
不思議な存在も信じていた方が楽しい
Q:孤独だったユイが、不思議な古民家・マヨイガで血のつながりのない人たちと共同生活を送る姿が描かれます。脚本を読んだ印象を教えてください。
タイトルにもあるマヨイガというのは、岩手県の伝承で“訪れた人をもてなす家”と言われています。“出会うことのできる人だけが、見つけることのできる家”というものが、本当は自分のすぐ近くにあるけれど、なかなか気づくことができない“小さな幸せ”というものとすごくリンクしているような気がしました。身近に潜んでいるものに思いを馳せられて、すてきな勇気をもらえるお話だなと感じました。
Q:河童や座敷童をはじめとした妖怪たちとの交流も見どころです。もし目の前にそういった存在が現れたら、芦田さんは受け入れられますか。
信じていた方が楽しいかなとは思っています(笑)。そんなのいるわけないよと切り捨ててしまうのではなく、近くにもいるのかもしれない、会ったらどうしようと想像するのは、とても楽しいことですよね。もし目の前に現れたら、時間がかかるかもしれないけれど、しっかりと受け入れて、仲良くなってみたいなと思います。
Q:演じたユイは、芦田さんと同じ17歳です。自分の居場所を失い、孤独を抱えている少女ですが、17歳の心の動きとして「わかるな」と共感する部分はありましたか。
ユイには、人に対して素直になりきれないところがあって……誰かに優しくされたときに、頭ではわかっていてもうまく「ありがとう」と言葉にできなかったり、誰かに親切にすることを恥ずかしいと思ってしまったりもします。私も急に恥ずかしくなったり、これでよかったのかなと不安になったりすることもあるので、そういったユイの心の葛藤はすごくよくわかるなと思いました。
たくさんの経験が自分の土台になる
Q:素直になれないユイは一見、ぶっきらぼうにも見えますが、心の中には温かな優しさを持っている女の子だと思いました。演じる上で大切にされたのは、どのようなことでしょうか。
そう感じていただけて、とてもうれしいです! ユイは過去につらい経験をしていることもあって、自分の思いをうまく表現できず、殻に閉じこもってしまっているんです。だからといって、冷たい印象を与えたり、無愛想な女の子にはしたくありませんでしたし、本当は心の優しい、思いやりのある女の子だということを伝えたいなと思っていました。原作や台本を何度も読んで「どうやって演じたらいいのだろう」と考えていたんですが、やはりぶっきらぼうに見えがちなユイに優しさをにじませるというのが、とても難しくて。悩みつつ練習して、アフレコに臨みました。アフレコ当日は、ユイの気持ちに寄り添いながら演じることができたかなと思っています。
Q:監督は、アニメ『のんのんびより』シリーズの川面真也さんが務めています。川面監督の演出で、印象的だったものがあれば教えてください。
ユイはセリフというよりも、“息のお芝居”でいろいろな表現をすることが多かったように感じています。でも“息のお芝居”ってすごく難しくて。悩んでいるのか、うれしいのか、驚いているのかなど、息の強さや長さの違いで、感情の変化を表現することになります。劇中でユイが雑巾掛けをするシーンがありますが、そこの息遣いは、やはり立ったままではイメージがしにくい部分もあり、監督が「実際にちょっとやってみたら?」とおっしゃって、アフレコスタジオの床で実際に雑巾掛けをしてみたんです(笑)。監督が提案してくださったことで、感覚がつかめました。
Q:あのシーンは、実際に雑巾掛けをした後のリアルな息遣いだったのですね! 確かに息での繊細な感情表現は、声優業で特に必要となる技術ですね。芦田さんはこれまでにも声のお仕事をされていますが、その面白さや難しさをどのように感じていますか。
普段のお芝居では、身体の動きや顔の表情で表現できる部分も多いですが、声だけに気持ちを乗せてキャラクターに命を吹き込むというのは、とても難しいところでもあり、だからこそやりがいを感じる部分でもあります。今回のようにアニメだと、自分の見た目とはまったく違う存在になれることもあり、演じる役柄の幅が広がることもあるので、そういった点もとても楽しいなと思っています。
Q:声のお仕事の経験が、実写のお芝居にも活かされることはあるのでしょうか。
それぞれ違った技術が必要になるとは思いますが、“演じる”ということでは同じかなと思っています。どちらでも役柄を通して、作品のテーマや役への向き合い方を立ち止まって考えたりするので、いろいろなことを考えるきっかけをくれるものだなとも感じています。たくさんの経験を積むことで、自分の土台が作られていっているなと思います。
受け止めてくれる存在が救いに
Q:ユイは、キワさんやひよりとの出会いを通して、心の傷を癒やしていきます。ユイを通して、人が立ち直っていく道のりについて考えたことがあれば教えてください。
時と場合によりますが、つらいことがあったときに一人で解決するのは、なかなか難しいことかもしれません。でも相談したり、受け止めてくれる人、弱い自分も「ありのままでいいんだよ」と肯定して、包み込んでくれるような存在がいてくれたら、とても救いになるし、自分も優しくなれるきっかけを与えてくれるものだなと思いました。
Q:芦田さんがもし壁にぶつかったときは、やはり誰かに相談しますか。
ユイのようなつらい経験をしたことはありませんが、私も両親や友達に相談すると思います。ポロッと悩み事を口に出して、それを受け止めてくれる存在がいるってとても心強いことですよね。ただ一緒にいてくれるだけでも、ホッとすると思います。また、もし相談できないようなことがあったとしたら、ぬいぐるみや飼っている猫に語りかけてみようかなと(笑)。モヤモヤと溜めているものを口に出すだけで楽になったり、スッキリしたりすることもあるのかなと思っています。
17歳は微妙な年齢 今を思い切り楽しみたい!
Q:キワさんの発する言葉は名言の宝庫でもあります。印象的なセリフやシーンは?
キワさんは「ただ小さな幸せが近くにあればいい」と言うのですが、その言葉は本作の主題でもあり、私自身「いいな」と思った一言でもあります。キワさんとひよりとユイが、縁側に座ってご飯を食べるシーンがあります。みんなでおいしいご飯を食べて、一緒に笑い合える人が近くにいるという、まさに小さな幸せを実感できるシーンで、そこに流れる温かい雰囲気が大好きです。
Q:本作は、17歳という同年齢の役柄を演じる機会になりました。17歳という年齢をどのように捉えていますか。
周りのことや、この先に待っていることも想像しながら、責任を持って行動できるのが、“大人になる”ということなのかなと思っていて。そういった意味だと、17歳というのは大人でもあり子供でもある、微妙な年齢なのかなと思っています。どちらかというと大人の側なんだと思いますが、大人のように自分に責任を持って、なんでも一人でできるわけではない。誰かに頼ったりしないと、生きていけない年齢でもあります。一方で、子供のようにはしゃいで大人から叱られたとしても、まだ許されたり、甘えられる年齢でもあるのかなと感じています。
Q:たしかにもう少しすると、友達とも進路が分かれたり、将来に向けて責任を持たなければいけないことも増えてくるかもしれません。
そうなんです。高校生活も限りがありますし、だからこそ今は友達といる時間がすごく楽しくて! 1日に1回は大爆笑する時間があるんですが、そうやって友達と笑い合えることが、とても幸せです。なんで笑ったのかわからないくらい、くだらないことで爆笑しています。学校生活や友達との時間など、今を思い切り楽しみたいと思っています。
パッと周りが明るくなるような、可憐な笑顔で現れた芦田愛菜。ひとつひとつの質問に丁寧に答える聡明さはもちろん、「毎日、友達と爆笑しています」と楽しそうに話す素顔も魅力的。女優業の醍醐味は「役柄を通して、相手役の方とコミュニケーションができたと実感するとき」と明かすなど、人とのつながりを大切に大人への階段を上っている。未来に向かって、どのような女性になっていくのか。ますます楽しみだ。
ⓒ 柏葉幸子・講談社/2021「岬のマヨイガ」製作委員会
映画『岬のマヨイガ』は8月27日より全国公開