『燃えよ剣』柴咲コウ 単独インタビュー
裏方の気持ちが理解できるようになってきた
取材・文:坂田正樹 写真:杉映貴子
大河ドラマ「おんな城主 直虎」(2017)で、井伊家断絶の危機に立ち上がった稀代の城主を見事に演じ切った柴咲コウ。あれから4年、『関ヶ原』(2017)の岡田准一と原田眞人監督が再タッグを組んだ映画『燃えよ剣』で、時代劇の世界に再び帰ってきた。演じるのは、幕府の権力を回復させたい佐幕派と天皇を中心に新政権を目指す討幕派の対立が深まる動乱の中、岡田演じる新選組副長・土方歳三と惹かれ合う女性・お雪。本作の撮影を振り返りながら、「以前よりも自分が携わる作品への愛が深まった」という柴咲。その真意とは?
自分も男性たちのように戦いたかった
Q:心に闇を抱えながら、土方に思いを寄せていくお雪。原作者・司馬遼太郎(遼のしんにょうは点2つ)さんによる架空の女性ですが、このキャラクターをどのように捉えましたか?
時代に翻弄されながらも「魂だけは売らない」という芯の強さを持った女性をイメージしながら演じました。絵師であるお雪は、裏で残酷な絵を描き続けますが、夫の命を奪った動乱の世に対して、彼女なりの抗う気持ちの表れだったんじゃないかと思います。
Q:一人静かに心の中で戦っていたんですね。
でも撮影中、体を思い切り動かして戦っている男性陣を見て、正直「うらやましいなぁ」とも。「なんでわたしだけ戦えないの?」って(笑)。みなさん、殺陣がすごくかっこいいじゃないですか。特に岡田さんのアクションシーンは目の前で観たかったんですが、役柄上、彼とは静かなシーンが多かったので、それが叶わず、ちょっと残念でした(笑)。
Q:それにしてもお雪と土方のプラトニックな関係にはヤキモキしました(笑)。
言葉を選ばずに言うと、むっつり感があるというか……(笑)。気持ちに逆らえないんだから、早く行動すればいいのにってわたしも思いました(笑)。
Q:お雪は土方のどんなところに惹かれたと思いますか?
たぶん、人間の光り輝く部分と、その裏側にある影の部分、その両面で本能的に惹かれ合うものがあったのではないでしょうか。あとは、ちょっと変わり者の土方さんをセクシーに感じたのかもしれませんね。劇中、二人が愛を交わすシーンがありますが、実はもっとたくさん撮影していて、艶やかなシーンも結構あったんです。でも、バッサリとカットされていましたね。原田監督のお考えがあってのことだと思いますが、結果的には抑えたことによって想像力を掻き立てる素敵なシーンになったと思います。
原田監督にはすべてを見透かされてしまう
Q:厳しい演出でも知られる原田監督の撮影現場はいかがでしたか?
原田監督の中に「こういうキャラクターにしたい」という明確なイメージがあるので、ご指導も的確で、ダメな時にどこをどう直せばいいかもはっきり伝えてくださるので修正もしやすかったです。ただその分、自分が「指示通りに動けなかったらどうしよう」というプレッシャーは常にありました。
Q:原田監督は、妥協を許さない完璧主義ですからね。
まさにそうですね。すべてを見透かされているというか、浅はかな演技をすると、すぐに指摘されてしまいます。例えば、お雪が夕食の支度をしているとか、何かをしながら会話しているとか、何気ない日常のシーンでも、「お芝居をしています」とわかってしまうとダメなわけですよね。そこがすごく厳しいなと思いました。俳優としては当たり前のことかもしれませんが、まさにそこなんですよね。観ていただく方を意識させてしまったら興醒めだと思うので。
Q:柴咲さんは大河ドラマの主演も務めていますが、過去の時代劇の経験が生きたところもありましたか?
「おんな城主 直虎」は時代が少し違いますが、着物を着た日常生活の動きや所作は体に染み付いていたので、それは役立ったと思います。20代の時に『化粧師 KEWAISHI』(2002)という作品に出演したことも大きかったですね。和服と洋服が混在する大正時代のお話でした。本作でも明治に切り替わる時代の中でそういった場面が出てくるのですが、経験がある分、それほど戸惑うこともありませんでした。
岡田准一は「ザ・主役」というより「職人」
Q:初共演となる岡田さんの印象はいかがでしたか?
現場でそんなにお話ししたわけではないのですが、いわゆる「ザ・主役!」という感じではなかったですね。常に全体を俯瞰(ふかん)して見渡しながら、座長としてみんなを取りまとめる、という感じでしょうか。殺陣に関しては、俳優の動きを見ながら「この場合はこう動いた方がいいんじゃない?」といったふうに、ある意味アクション監督のように指導されていましたね。どちらかというと「職人」的な印象が強かったです。
Q:特に心に残っているシーンは?
山田涼介さん演じる沖田総司と土方とお雪の3人が揃うシーンが、ほっこりして好きです。男同士でいる時の土方さんと、お雪といる時の土方さんって、表情や態度が微妙に違うんですが、その両方を垣間見られて得した気分でした(笑)。
Q:こうした幕末の男たちの戦いは、柴咲さんの目にはどう映っているのでしょう?
複雑な時代情勢の中で仲間を亡くし、自らの命を落としそうになっても「魂は枯れません」みたいところはかっこいいし、ワクワクしました。この作品に出演して、「男性っていいな」とも少し思いました。
独立後、作品への愛が深まった
Q:独立後も俳優、歌手、実業家、さらに環境特別広報大使など、多岐にわたって活躍されていますが、現在はどんなバランスでお仕事をされているのでしょう?
芸能関係のお仕事も、さまざまなビジネス展開も、自分で統括することになったので、すべてが影響し合って、とてもいい方向に進んでいると思います。感覚的には、自分の中でいろんなものが循環していて、そこから新しい価値観が生まれてくる感じですね。特に今、作り手側の仕事をどんどん経験させていただいているので、裏方の気持ちが本当に理解できるようになってきて、その分、出来上がったものに対していっそう愛が深まるようになりました。
Q:俳優としても作品に対する愛が以前より強くなったという感じですか?
もともと、「俳優部だけが特別」みたいな空気に抵抗があって、例えば、技術の方には技術の方の考えがあって、美術の方には美術の方の考えがあって、それらをみんなが持ち寄って1つの作品を作るという、そういうセッションが楽しいんですよね。
Q:今後、自ら裏方に回って映画やドラマを作る計画もあるのでしょうか?
実は、山田孝之さんたちが立ち上げた短編映画制作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS」でショートムービーを監督することになったのですが、絵コンテを作ったり、カット割を考えたり、その作業がすごく楽しくて。自分が撮りたかったものを表現できるいい機会だなと思って、すごくワクワクしています。それがご覧になる方にどう評価されるかは分かりませんが、挑戦させていただけること自体が幸せだなと思っています。
Q:柴咲さんの頭の中が観られるわけですね。
そうですね。どんな作品になるか分かりませんが、今は「作ること」を心から楽しみたいと思っています。
映画『ねことじいちゃん』(2018)以来、約2年ぶりに長編映画に出演した柴咲。動乱の世の中で厳しい戒律のもと、時に身内をも粛清する新選組の志士たちの殺伐としたシーンが続く中、土方とお雪の逢瀬はつかの間の安らぎをもたらす。俳優、歌手として表舞台に立ちながら裏方の制作も経験し、さらなる飛躍を遂げつつある柴咲の凜とした輝きをスクリーンで感じられるはずだ。
スタイリスト:柴田圭/KEI SHIBATA ヘアメイク:SHIGE
©2021「燃えよ剣」製作委員会
映画『燃えよ剣』は10月15日より全国公開