『CUBE 一度入ったら、最後』菅田将暉&岡田将生 単独インタビュー
どんな危機に瀕しても役者はやめられない
取材・文:坂田正樹 写真:映美
謎の立方体に幽閉された男女の脱出劇を描いた鬼才ヴィンチェンゾ・ナタリ監督の伝説的密室スリラー『CUBE』が、日本版として新たにリメイクされた。オリジナル版よりも人間模様を浮き彫りにした本作は、状況によって変化していくそれぞれの心理状態を、まるで舞台のような熱量でスリリングに描く。随所に仕掛けられた殺人トラップをクリアしながら、必死に生き延びようとする6人の中で、物語のキーマンを演じた俳優の菅田将暉と岡田将生が、かつてない不思議な撮影現場を振り返るとともに、自らの危機経験を語った。
俳優次第でコメディーにもホラーにもなる
Q:ナタリ監督公認のリメイク版として注目を浴びています。
菅田将暉(以下、菅田):オリジナル版を改めて観てみましたが、やっぱりよくできているなと思いました。登場人物の設定が殺し屋だったり、警官だったり、それぞれの職業がなぜかリアリティーがあってしっくりくる。でも、日本人の僕らが「実は殺し屋なんだ」とか言っても、「ん?」みたいにどうしてもなっちゃうので、その辺りはエンジニアとか、フリーターとか、団体職員とか、リアリティーのある設定にしたところがよかったですね。あと、狭い空間で人間関係がギクシャクする描写は、ある意味、日本人っぽいなとも思いました。
岡田将生(以下、岡田):僕も撮影に入る前に改めてオリジナル版を観ましたが、アイデアにあふれたすごい作品でした。リメイク版への出演を決断したのは、あの空間に閉じ込められても、苦痛を感じないメンバーが揃っていたことが大きな要因でした。皆さんと楽しくお芝居しているイメージができて、クランクインが待ち遠しかったです。
Q:今回はお二人のほかに、杏さん、田代輝さん、斎藤工さん、そして吉田鋼太郎さんと、絶妙なキャスティングでした。
菅田:この作品って、俳優がそっくり入れ替われば、奇妙なコメディーにもなるし、怖いホラーにもなると思うんです。ということは、僕らの表情、目の動き一つであの空間が全部変わってしまうので、ある意味、俳優の力量に委ねられているところは、ちょっと荷が重いと思いました。でも今回はすごくバランスのいいメンバーが揃ったので、とても心強かったです。
岡田:吉田鋼太郎さんが現場に入られてから、より舞台のようになりましたしね。明らかに声量が違っていましたし(笑)、僕らもそれに引っ張られていくところもあって面白かったです。
全員疲弊する中、なんとか最後まで撮り切った
Q:セットも素晴らしかったですよね。中に入ってみてどんな感じでしたか?
岡田:完成度があまりにも高くて、最初見た時は感動しました。ここで僕たちは1か月弱、1つの映画を撮るんだって思うと、本当にワクワクしました。
菅田:最初は僕も感動しました。シチュエーションによって光も変わり、まるで生物のようでした。ただ、あの空間に閉じ込められて撮影を続けていくと、何かを失っていく感じがしました。人間としての感覚が1個1個減らされていく怖さというか。
岡田:確かに。日に日に控え室からセットに入っていくスピードが遅くなっていくんです(笑)。「ちょっと入りたくないな」って、みんなため息まじりに。誰が一番先に立つか牽制し合っていたよね。
Q:あのセットの中での撮影は、やはり大変でしたか?
菅田:限られたスペースの中でいろんな場面を撮らなければならないので、段取りが大変でした。全員で「今、何をしているのか」を理解するのにとても時間がかかりました。右から入って左から出るとか、何個上に上がって何個左へ行ってこのセリフを言うとか、みんな理解してこの会話をしているのかとか、シンプルに難しかったです。
岡田:終盤はみんな疲弊していて……。『CUBE』はカタチにするのが本当に難しい作品だなと思いました。
岡田の危うい魅力にゾッコン
Q:『銀魂』シリーズなど共演経験もあり、“ダブル・マサキ”と言われるくらい仲のいいお二人ですが、改めてお互いの印象を教えてください。
菅田:僕が言うのもなんですけど、今回のあの役はマーくん(岡田)にしかできないですよね。普段からいろいろ話をしたり接したりしていても、「この人はちょっと人と違うなぁ」って思いますし(笑)。なんかその危うさがやっぱり岡田将生という俳優を見る1つの楽しみだなと思っているので、個人的に見たかった姿が見られたので、すごく楽しかったです。
岡田:プライベートではよく遊んでいましたが、『銀魂』の時はあまり同じシーンがなかったので、菅田くんとここまでガッツリお芝居するのは今回が初めて。僕は菅田くんと芝居ができる現場に行きたかったというのが一番大きかった。現場をまとめ、引っ張ってくれる菅田くんは本当に頼れる存在。だから、常に真ん中にいるんだなと思いました。
Q:ガッツリ共演してみて、お互い新たに気づいたことはありましたか?
菅田:今回は限られた空間の中で、もうやり合うしかない状況でしたからね。もちろん演出とか撮り方はあるけど、結構任されていて、清水(康彦)監督もそれを望んでいたので、好きに暴れていた、という印象しか残っていないですね。
岡田:でも、その中でも菅田くんは、客観的にちゃんとお芝居を構築していて、その姿を一緒にやりながら見られるのもすごくうれしかった。特に今回は、お互いに追い込まれた状況にいて、(自分たちの役は)どっちがどっちになるか紙一重だったので、演じていてすごくスリリングでしたね。
菅田:試されている感じもありましたよね。「お前、この空間で何ができるんだ?」みたいな。途中、ちょっとめげそうになりました。「もう身振り手振りや動きでどうにかなる場所じゃない、感情でやるしかない」と。
舞台で絶体絶命「何度もナイフで刺された感じ」
Q:登場人物たちのように、危機的状況に陥って思わず逃げ出したくなった経験はありますか?
菅田:わかりやすい状況でいうと、「まちがいさがし」でNHK紅白歌合戦(2019)に出た時ですね。本当にやばかったです。極度の緊張を超えると、音も聞こえなくなって体が浮いているみたいになってくるんですよ。本当にサーッと冷たくなって、感覚がなくなって、どれだけ声を出しても音が聞こえなくなってくるんです。「死ぬのかな?」って。あの感じはほかの現場で味わったことはないですね。マーくんはないでしょ? 普段、慌てることって。いつもの天然はビジネス慌てでしょ?(笑)。
岡田:全然そんなことない。ずっと慌てているよ(笑)。でも、菅田くんの話を聞いて今思い出したのは、「ハムレット」(2019)の舞台をやる時に、いろんな方が観に来てくださって。緊張のあまりメンタルをやられたことがありました。
菅田:「今日は誰々が観に来ています」とか、やめてほしいよね。
岡田:そうそう! あの時は終演後に楽屋にも来ていただいて、お話をさせていただく時間もあったので……。緊張がMAXになって、舞台上で気を失いかけました。
Q:でも、そういうことがあっても俳優業を続けている。それはなぜですか?
岡田:何度も心をナイフで刺された感じがあるのに、またここに帰ってくる……見えない何かがあるんですかね。
菅田:僕も「もうやめたい」って何度か思ったけれど、でもやめていない。不思議だよね。たぶん、考えてもわからない、きっと僕らはアホなんだと思います(笑)。
閉塞感のある狭い世界でもがき苦しむ菅田と岡田の姿は、もしかすると、コロナ禍に置かれたわれわれの精神状態を象徴的に表現しているのかもしれない。果たして自分は菅田派? それとも岡田派? 映画館と一体となった『CUBE』の中で、自分を試して観るのも面白いかもしれない。
映画『CUBE 一度入ったら、最後』は10月22日より全国公開