すごい! 63歳で素足見せ!『プラダを着た悪魔』のスタイリスト、パトリシア・フィールド
一流ファッション誌の鬼編集長と新人アシスタントのバトルを描いた『プラダを着た悪魔』。米ヴォーグ誌の元編集アシスタント、ローレン・ワイズバーガーが自身の体験をもとに執筆したといわれる同名ベストセラー小説を映画化した本作は、ファッション誌業界の裏側が垣間見られるファッショナブル・ムービー! 劇中には、プラダはもちろん、シャネル、エルメス、ドルチェ&ガッバーナなど、憧れのブランドアイテムが続々登場するが、その衣装を手掛けた名スタイリスト、パトリシア・フィールドに話を聞いた。彼女は人気ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』のスタイリングでも知られている。記者の前に現れた彼女は63歳という年齢をもろともしない、黒のショートパンツ、しかも素足!というスタイルだった。
Q:衣装の依頼が来た時は原作のことをご存知でしたか?
ええ、すでに読んでいたわ。この類の(ゴシップ要素のある)本はあまり読まないのだけれど、自分の知り合いがモデルになっているということで発売直後に読んだの。その頃は映画化が決まっているとは知らなかった。仕事を依頼された時は「原作をなぞるのではなく、映画ならではのものを作りたい」と監督に言われたの。映画を観た多くの人から「原作より映画の方がいいね」と言われたし、私自身もそう思うわ。小説を映画化する場合、大抵は「映画より原作の方がよかった」と言われるものなのにね。
Q:衣装面で一番苦労したことは?
用意すべき量がとても多かったことね。私の仕事の場合、まずは役者に会ってイメージを膨らませるところから始めるのだけれど、それ自体は何の苦労もなかった。インスピレーションを沸かせやすい仕事だったと思うわ。けれど、題材が題材なだけに、とにかく大量の衣装を用意しなくてはならなかったのが大変だったわね。
Q:服を着せる対象としてのメリル・ストリープとアン・ハサウェイの印象は?
2人ともOKだと思うわ(笑)。彼女たちは決してモデル体型ではないので、(モデルが着る)サンプルをブランドから借りて、そのまま着せることはできない。衣装の予算がなかったわけではないし、サンプルで対応しなくてはならない製作状況でもなかったのだけれど、それで済ませられるに越したことはないじゃない? でも、2人とも美しいし、OKよ。
Q:いろいろなブランドの洋服が登場しますが、「ウチの服をもっと使ってくれないか?」とブランド側から言われたりしましたか?
いいえ、そんなことは一度もなかった。もちろん、心の中では思っていたでしょうけれどね(笑)。私は好き嫌いで衣装をチョイスしたのではなく、あくまでも役のキャラクターに合うものを用意したの。そのことはブランド側も承知していると思うわ。
Q:特に気に入っている衣装はありますか?
ヴァレンチノがメリル・ストリープのために作ってくれたドレスは今思い出しても素晴らしいと思う。胸元から肩にかけてのカッティングが絶妙なの。あと、(ファッション・ディレクター、ナイジェル役の)スタンリー・トゥッチが着ていたスリーピースのスーツは個人的にベストだわ。ヴィンテージなのよ。アン・ハサウェイの場合はファッションに目覚めたばかりのキャラクター設定だから、最新トレンドを雑誌フォトのようなテイストでそのまま着せることが多かった。でも、彼女は美しいからどれもよく似合っていたわね。
Q:メリル・ストリープやアン・ハサウェイから提案や注文はありましたか?
メリルからは「私は絶対にストッキングを履くわよ!」と宣言されたわ。普通は素足にパンプスを履くのがクールなのだけれど、彼女は「スクリーンに自分の生足が映ったら観客に悪いわ」って言うの。仕方がないから、そこは譲ったわ(笑)。
Q:映画の中のメリル・ストリープはとてもゴージャスですね。
彼女はいろいろな役柄にチャレンジする女優だから、スクリーンの中で常に美しさを保とうとするタイプじゃない。だから、今回はとにかく彼女の美しさを引き出したかったの。女王のような威厳を持つ、ゴージャスな女性としての彼女を見せるべきだと思った。
Q:『セックス・アンド・ザ・シティ』では使用した衣装をキャストが買い取ることがあったそうですが、今回もそのようなことはありましたか?
キャストが買い取ることはなかったわよ。ただ、「サラ・ジェシカ・パーカーがおたくの服をすごく気に入っているのだけれど……」と言うと、大抵のデザイナーはくれたわね(笑)。今回、メリルは自分が着た衣装をチャリティ・オークションに出すことに決めたの。各ブランドにお礼状を書いて、「よろしければオークションに出しませんか?」と提案したそうよ。
Q:日本での『セックス・アンド・ザ・シティ』の人気は凄まじいものがありました。あなたにとっても、あのドラマは転機となりましたか?
私自身の転機になったということはないけれど、あのドラマがヒットしたおかげで自分の知名度が世界的に上がったのは事実だと思う。あのドラマのいいところは、私自身も主人公4人の中の1人として番組に関わることができたこと。ニューヨークで生まれ育ち、キャリアを積み上げた1人の女性として番組を成功させることができたの。
Q:そもそもファッション業界で働くようになったきっかけは?
私の家族は全員お店を経営しているのだけれど、その影響が大きいわね。大学卒業後に小売業の勉強をしようと思って、あるデパートのファッションストアで働き出したの。大学でファッションを学んだわけではないのだけれど、楽しかったし、私個人にもできる仕事だと思った。それで、3年間働いた後に自分のお店をオープンしたわけ。それから20年ほどショップ経営をメインに活動し、「何か新しいことをしたい」と思っていた時に縁あってテレビの仕事をもらったの。今はショップ経営と映画やテレビのスタイリング業を両立している感じね。
Q:日本にもお友だちがたくさんいらっしゃるとか?
1985年以来、何度も日本に来ているもの。最初は日本語が全くわからなかったし、東京は「自分にはトゥー・マッチな街だな」と思った。けれど、1990年頃に友だちが増え始め、それからは自分の一部になったの。ニューヨークにある私のお店では日本人の女の子もたくさん働いているしね。
Q:日本の女の子のファッションをどう思われますか?
それぞれのおしゃれを楽しんでいると思う。東京のよさは多様性があるところよね。ニューヨークもそうなのだけれど、みんな自分の着こなしにこだわりを持っているんじゃないかしら。おしゃれのことを真剣に考えている感じが伝わってくるわ。『セックス・アンド・ザ・シティ』が放映される前は、「ブランドで固めて終わり」という子が多かった気がする。今はもっとクリエイティヴで、すごくいいと思うわ。
時折ユーモラスな毒舌を交えながら語ってくれるパトリシアのオーラは、ハリウッドスターに勝るとも劣らぬ強烈なもの! また、この日の装いは自社ブランドのタンクトップにバナナ・リパブリックのボレロ、ZARAのボトムス、ディオールのブレスレット、ロベルト・カヴァリの時計、ヴィクトリア・シークレットのサンダルで、「まさに我が道を突き進むファッションリーダー!」な着こなしが目を楽しませてくれた。
『プラダを着た悪魔』は11月18日より日比谷スカラ座ほかにて公開
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