「多分…世界で初めて!」85分ワンシーンワンカットの撮影舞台裏
第20回東京国際映画祭
26日、第20回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、85分の全編ワンカットワンシーンで撮影された映像が大きな話題を呼んだ映画『ワルツ』のサルバトーレ・マイラ監督とマリーナ・ロッコがインタビューに答えてくれた。
85分間、ホテルを舞台に動き回る主人公の後を追う撮影には、ステディカムが使われた。ステディカムは、手ブレ防止装置を付けたカメラのこと。カメラマンの体に装着して、動いている人間を一緒に追いながら撮影できる。ただ、非常に機材が重く、男性でも長い時間連続して撮影するが難しいと言われているが、85分まったく映像がとぎれない本作を、いったいどうやって撮影したのだろうか。
「実は2人のカメラマンが20分ごとに交代して撮影しています。カメラが止まっている時間を利用して交代しているのです。85分間1台のステディカムで撮影したのは本作がたぶん世界で初めてです」と監督。「2人のカメラマンのうち1人は、最後には体にシップを貼って撮影していました。カメラの重さはもちろん、動きながらフォーカスや絞りを調整して撮影しますからね。この映画の最大のヒーローはカメラマンなんですよ(笑)」と舞台裏を明かしてくれた。
そして監督は、肩から小さいモニターを下げて、カメラの後をついてまわりモニターでチェックしていたそうだ。また、85分の撮影を10テイク撮影したそうだが、撮影日数はなんとたった5日半だったという。しかも撮影場所のトリノのホテルは、撮影中も営業しており、朝の10時くらいからディナーが始まる時間までを使って撮影したそうだ。
映像がどうしても注目されてしまう本作だが、それはあくまで登場人物たちの心象風景を描くための手段にすぎない。主人公のアッサンタには現代イタリア社会の悩める若者の姿が投影されている。「最近法律ができて、企業は1か月や2か月という短期間の雇用ができるようになったのです。そのために何年間働くにしてもその都度契約を更新しないといけないという状況で、就業する人は常に精神的にストレスを感じている。正社員として働くのは非常に難しく、一時的に仕事に就くことができても、企業の都合ですぐ契約を破棄されるのです」大学を卒業しているアッサンタもこういった状況で10年もメイドとしてホテルで働いている。彼女の不安や焦燥感の背景には、こういった状況があるのだという。
また、セレブにあこがれ、整形手術をするためにお金を稼ぐことにやっきになっているルチアという女性も登場する。彼女もまた女性のある意味でのあこがれを体現しようとする象徴的な存在といえるだろう。ルチアを演じたマリーナ・ロッコは「イタリアには、自分の体を武器に有名になっている女性がいて、その人たちは整形手術をして成功しているという事情があります。ホテルで働くルチアはそんな女性たちを近くで見ているため、ホテルの仕事はハードですから、整形手術をするだけで成功できるのなら自分も! という気持ちにかられている。彼女はバイタリティがあり、コミュニケーションの力もある女性ですが、それをどういう方向に生かすべきかわからず、破壊的になってしまっている」と自らの役柄について語ってくれた。
舞台となるホテルはそのまま社会の、人生の縮図にもなっている。華やかな表の部分と、ドアひとつ隔てた裏側ではアルバニアやフィリピンなどいろんな国から来た移民たちが働いている。優雅な音楽が流れるフロアと、エアコンや騒音が響く対比。さまざまな人間がホテルという場所で、まるでワルツを踊るように交わる。そんなふうに観ると、本作をより深く感じることができるに違いない。
(ワンシーンワンカットとは、一定の場所で動作が連続している状態で撮影し続け、場面転換をしないこと)
第20回東京国際映画祭は、六本木ヒルズと渋谷Bunkamuraをメーン会場に20日から28日まで開催される。
東京国際映画祭オフィシャルサイト tiff-jp.net