世界貿易センタービルを綱渡りで8往復した男に直撃インタビュー!
サンダンス映画祭ワールド・ドキュメンタリー部門で話題となった映画『マン・オン・ワイヤー』(原題)について、綱渡り師フィリップ・ペティットに話を聞くことができた。本作は1974年ニューヨークにある世界貿易センタービルの頂上で綱渡りをしたフィリップの人生を鮮明に描いた作品だ。
‐この作品を通して、あなた自身が学んだことは何でしょうか?
(フィリップ・ペティット)この作品は自分の人生にとって、大変貴重なものだと思っているよ。まず今までの自分の失敗や、さまざまな出来事を思い返すことができたからね。そういう意味ではこの映画全体を通して、僕の人生をもう一度学ばせてもらったという感じかな。あの当時は僕のことが話題になってコマーシャル出演のオファーが何度かあった。それを受けていればすぐにでも億万長者になれたよ。だけど僕は全部拒否してきたんだ。生活は苦しかったけど、名声を利用するのは嫌だったからね。
‐これだけの度胸のあるあなたに、恐怖という感情はあるのでしょうか?
(フィリップ・ペティット)確かにあの高さは怖いよね。だけど僕は昔から高いところに登るのが好きで、今でも毎日4時間のトレーニングを積んでいるんだ。もちろん、わたしにだって恐怖という感情はある。だけど自分の恐怖の対象が一体何なのかを常に追求し、克服するようにしているんだ。そうすると恐怖はいつの間にか消えてしまうんだよ。
‐道端でジャグリングをしているあなたと、綱渡りをするあなたは別人のように見えます。あの心境を説明してください。
(フィリップ・ペティット)そうだね、僕はまるで映画『ジキル博士とハイド氏』のようだね(笑)。完全に多重人格だよ! 心のスイッチを切り替えているんだ。ジャグリングではしゃべらないコミカルなキャラクターを40年間もやってきたし、死ぬまでやるだろうね。その僕と綱渡りをする僕は完全に別人かといえばそうじゃない。何点かの共通点はあるんだ。例えば着ている洋服は一緒だったりね。内面では、完全に心を切り替えて集中しているよ。そうじゃなければこんな芸当はできっこないよ!
フィリップは世界貿易センターを単に綱渡りするだけではなく、8往復する中で、逆立ちしたり、寝転んだりと、驚くべき芸当を披露した。この出来事が世界貿易センタービルの大きな宣伝効果を生み、空室だらけだったオフィス・スペースが瞬く間に埋まってしまったという逸話がある。(取材・文:細木信宏)