仲代達矢、76歳「そろそろラストラン」と新作映画にかける意気込み
俳優、仲代達矢が映画『白い犬とワルツを』以来、7年ぶりに主演する映画『春との旅』がこのほど、クランクアップした。
同作品は、北海道に孫娘の春と二人暮らししているに忠夫が主人公。春が都会に出ていくことをきっかけに、姉弟たちに生活の面倒を見てもらおうと、彼らを訪ね歩くロードムービーだ。映画『愛の予感』で「第60回ロカルノ映画祭」の金豹賞(グランプリ)を受賞した小林政広監督が8年前に執筆したオリジナル脚本で、毎年のように推敲(すいこう)を重ねてきたもの。
高齢者問題が深刻化している今を、小林監督のシビアな視点で切り取っている。主演の忠夫役には「この人しかいない!」と仲代のスケジュールが空くまで1年間待って、やっとクランクインにこぎ着けた企画だ。ラブコールを受けた仲代は「わたしは60年間この世界にいて、大小160本のいろんな良い映画に出させていただきましたが、この脚本を読んだときに、わたしの役者歴の中で5本の指に入る作品になるであろうと思ってます。わたしも76歳になりまして、そろそろラストランですから、そのときに良い本にぶつかったのは幸せなことだと思っています」と脚本を絶賛する。
撮影は4月6日にクランクイン。小林監督の別邸がある宮城・唐桑から、鳴子温泉、仙台、苫小牧と移動。そして、『歩く、人』など数多くの小林作品の舞台となってきた、北海道・増毛で4月末にクランクアップを迎えた。撮影に合わせて仲代と春役の徳永えりは旅を続けたが、道中、二人はギクシャクした関係にいる設定であることから、小林監督から「会話禁止令」が出ていたという。仲代は「撮影合間に一緒にメシでも食おうかと思ったら、それも禁止だと。ずっとコンビで旅をしていたからねぇ(苦笑)。でも芝居をしているときはカワイイですね。愛情が出てきた? ……はい」と目尻を下げた。徳永も「仲代さんから学ぶことばかりでした。『僕は忠夫という役を新人の気持ちでやっているんだ』とおっしゃっているのを聞いて、わたしも新たな気持ちで真摯(しんし)に役に向き合わなければと思いました」と襟を正したという。
そのほか、行く先々の町で忠夫の姉弟たちが登場するのだが、これが大御所ばかり。忠夫の兄に大滝秀治、その妻に菅井きん。姉に淡島千景、弟に柄本明、義妹に田中裕子と美保純。そして、春の生き別れた父親役で香川照之が出演する。仲代が「皆さん、いいところをさらって、一日二日で(現場から)帰っていくんですよ。そうすると、わたしと春は(物語の印象から)引っ込んじゃうのかな? 大丈夫ですか?」と小林監督が見やってニヤリ。
そんな仲代からのプレッシャーを受けつつメガホンを取った小林監督は「脚本を書き終わったときに気付いたのは、現代版の『東京物語』や『生きる』をやりたかったのかなと。その2作がモチーフになっています。あるときは、小津監督のように細やかに、またあるときは黒澤監督のようにダイナミックに撮っていこうと心掛けました」と語った。公開は来年夏。来年のカンヌ国際映画祭出品を視野にいれているという。(取材・文:中山治美)