『南京!南京』を映画祭コンペ作品に選んだ理由をサンセバスチャン映画祭プレジデントが明かす
スペインで開催中の第57回サンセバスチャン国際映画祭のプレジデントであるミケル・オラシレギ氏が現地時間25日にインタビューに応じ、コンペティション部門に中国映画『南京!南京』を選んだ理由などについて語った。
本年度のコンペ出品作は、アトム・エゴヤン監督『クロエ』(原題)、カンヌ国際映画祭の常連ブリュノ・デュモン監督『ヘドウィッジ』(原題)、フランソワ・オゾン『レフュージ』(原題)など17本。地元スペインからは、ダウン症の恋愛模様を大胆に描いた『ヨ、タンビエン』(原題)、養子縁組問題をテーマにした米国映画『マザー・アンド・チャイルド』(原題)と韓国映画『アイ・ケイム・フロム・プサン』など、社会問題を切り取った問題作が多いが、衝撃度は何と言っても南京虐殺事件を手持ちカメラでリアルに再現した、中国の陸川監督『南京!南京!』だろう。
オラシレギ氏は、「欧州ではあまり南京虐殺事件については知られていません」と前置きした上で、「作品は、監督個人の視点で描かれるものですから、当然、同じ事件を日本の監督が描いたら違う作品になるだろうと思います。しかし私たちは、どちらの立場を取るかということよりも、この作品に限らず、戦争を扱う作品は、戦争の恐ろしさや、犠牲になる市民の姿を映しだしていると考えます。このような作品では、戦争の当事者が誰かということよりも、犠牲になる人々を描いているという点に私たちは関心があります」と説明。
続いて、日本メディアの取材ということで言葉を選びつつ「この陸川監督の視点が正しいかどうかは、私たちは言及することは出来ませんが、日本であれ、中国であれ、イラクであれどのような戦争においても、人間の愚かさ、暴力、そして、その代償を支払わされる人々がいるという事実をこの作品は描いていると思います」と力説した。オラシレギ氏はバスク出身で、この地方はフランコ政権下に抑圧され、それに反発して組織されたEAT(バスク祖国と自由)によるテロ行為が今なお問題になっている。それだけに、戦に巻き込まれる人たちの悲劇を描いた『南京!南京!』の上映を決意したようだ。
また、同コンペ部門は昨年、是枝裕和監督『歩いても 歩いても』が出品されたが、今年は、日本作品は1本も選ばれなかった。オラシレギ氏はその事にも触れ、「2、3本選考に残った作品はありました。今年、エントリーされた日本映画の数は例年よりも多く、日本映画のレベルも高いと思うのですが、残念ながら最終選考まで残る作品は見受けられなかった」と言う。
一方でオラシレギ氏は、山田洋次監督の新作『おとうと』に興味を示していたそうで、配給会社の松竹にも、作品を見せてくれるように相談したという。「でも、映画の完成が映画祭まで間に合わないと言われてね……」と残念そうに語っていた。
コンペ部門の受賞結果は、現地時間26日に発表される。(取材・文:中山治美)