イデオロギーはファシズム!鬼才ミヒャエル・ハネケ監督が衝撃の新作映画を語る
カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを授賞した映画『The White Ribbon』(英題)について、鬼才ミヒャエル・ハネケ監督に話を聞いた。本作は、ファシズムが台頭しつつある第一次世界大戦前のドイツを舞台に、村の学校で儀式的に行われる子どもたちへの体罰と学校教育を描いたモノクロ作品。
ハネケ監督は「この映画は、人々がイデオロギーや概念に従いやすいことを示している。その意味では、われわれの間でよく知られているイデオロギーはドイツのファシズムだと思う。ただし、この映画はファシズムを描いた作品ではなく、あくまで歴史的事実を活用して、『いかにして人々はイデオロギーに操られやすいか』ということを探った」とテーマを明かす。本作は映画『隠された記憶』同様、主人公が謎を探っていく探偵譚(たん)的な側面がある。しかし「そういった展開でストーリーを進めたのは、観客を夢中にさせるためだけの手法」と映画構成の過程でしかないとハネケ監督。
デビュー映画『セブンス・コンチネント』から今作まで、ハネケ監督作品を象徴するのは余白だ。観客にすべてを与えることなく、小さな疑問を何個も残し、答えを明かすことがない。それは観客だけでなく、演じる役者たちも同様。「演じる俳優たちにも多くの情報を与えないんだ。俳優がすべてを把握してしまうと、そのシーンから疑問点が何も生まれないからね」とハネケ監督流の演出論があるようだ。
これまで誰の映画にも影響を受けてはいないと公言してきたハネケ監督だが、モノクロで撮影された本作は、批評家からイングマール・ベルイマン監督やアンドレイ・タルコフスキー監督作品などと比較された。「技術が進歩した現代で、リアリティーを出すためにモノクロを選択しているわたしの作品とは、そもそも出発点が違う。劇中のショッキングな場面もデジタルの進化がなければ生まれてこなかったものだしね。わたしの手法とは異なっているよ」とそれら指摘を突っぱねる。
これまでのハネケ監督作品同様、結論の解釈は人それぞれ多様に存在する。ハネケ監督自身が納得のいく面白い解釈はあったのだろうか? 「どんな解釈をされようとも驚かないよ。バカげたものもあれば、興味深いものもある。しかしわたしはそれらを承認することはない。それをしてしまうと、それと同じ解釈をもってわたしの映画を観てしまう落とし穴があるからね」と笑う。
第79回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した映画『善き人のためのソナタ』に主演したウルリッヒ・ミューエを本作にキャスティングする予定だったが、ウルリッヒの死でそれは実現しなかった。「この作品では、ウルリッヒを神父にキャスティングするつもりだった。彼は、わたしが最も好きな俳優の一人。わたしの映画『ベニーズ・ビデオ』『ファニーゲーム』『カフカの「城」』にも出演してくれて、亡くなってしまったのが本当に残念だよ」とドイツが生んだ名優の死を惜しんでいた。(取材・文:細木信宏/Nobuhiro Hosoki)