カルト漫画家・安部愼一の妻描く『美代子阿佐ヶ谷気分』日本から欧州に波紋広げる
第39回ロッテルダム国際映画祭のコンペティション部門「VPROタイガー・アワーズ」に選出された、坪田義史監督『美代子阿佐ヶ谷気分』がこのほど、現地で公式上映された。朝10時30分と早い時間での上映にもかかわらず、客席はほぼ満席状態。舞台あいさつに立った坪田監督は客席を見渡しながら「日本でもこんなに入ってくれたら良かったのに(苦笑)」と思わず本音を漏らし、会場の笑いを誘っていた。
しかし同作品は、主演の女優・町田マリーに第31回ヨコハマ映画祭で最優秀新人賞をもたらし、3月6日からは東京・三軒茶屋中央劇場での再上映が決定するなど評価がジワリと広がっている。カルト的な漫画家・安部愼一の妻をモデルにした短編という虚構と、実人生を巧みに交錯させた物語に、現地でもグランプリ受賞の呼び声が高い。本作が初の長編劇場映画となる坪田監督は「安部さんの私生活漫画が、水に石を投げて波紋が広がるように、ここ欧州まで届いたのが面白い」と感慨深げに語った。
もっとも坪田監督は批評家の評判よりも、妻と3歳の娘を映画祭に連れて来られた事の方が重要だったようで、「今まで僕がどんな仕事をしているのか今ひとつ理解されてなかったようだけど、これで家庭内での父親の立場が良くなりました」と、喜びをかみしめていた。(取材・文:中山治美)