10代での妊娠、児童虐待、DVが日常の家族描く衝撃のドキュメンタリー、最優秀作品賞獲得
アメリカ最大のドキュメンタリー映画の祭典で、サンダンス映画祭に次ぐ映画祭として世界からも注目されているシルバードックス・ドキュメンタリー映画祭で、最優秀作品賞に選ばれた『オクトーバー・カントリー』(原題)について、監督のマイケル・パルミエリと撮影監督のドーネル・モーシャーが語ってくれた。同作は、ニューヨーク州のモーホーク・バレーで暮らすモーシャー家族を中心に、その家族内で起きた10代での妊娠、ドメスティック・バイオレンス、児童虐待、養子、戦争の影響を描き、ワーキング・クラスの家族が抱える問題を浮き彫りにしていく秀作。撮影監督のドーネル・モーシャーは、この家族の長男でもある。
最初に、モーシャー家族の構成は、面倒見の良い祖母ドッティ、ベトナム戦争体験者の祖父ドン、その彼らの子どもたちが、問題の多い母親ドナと撮影監督のドーネル、さらに母親ドナの子どもたちは、10代ですでに子持ちの娘ダニエル(赤ちゃんの名前はルビー)と、小学生だが賢い娘デゾレーがいる。だが、一番ややこしいのは、このほかに、警察沙汰になるほどの不良少年の養子クリスと、墓地を徘徊しながら、死者のスピリッツ呼び出そうとする祖父ドンの妹デニースがいるのだ。
まず、製作経緯について監督のマイケルは「この映画のアイデアは、ドーネルが8年から9年掛けて家族を撮影したフォトエッセイから生まれものなんだ。撮影に入る1年前に、サンフランシスコで出会った僕らは、お互いの仕事(マイケルが映画、ドーネルが写真)に興味を示して、なんとかそれを映画製作に移行できないかと考えたのがきっかけになったんだ」と語る。
まず、母親のドナとその彼女の娘で、10代ですでに子持ちのダニエルが、同じように前夫からドメスティック・バイオレンスを受け、すでに別れていた。だが、その中で一番気になったのは娘のダニエルの告白で、「毎日のように前夫から暴行を受けていた」と語っているが、母親のドナが同じようにドメスティック・バイオレンスを受けていたのを、子どものときからよく見ていた娘のダニエルは、そんな状況下に自分が置かれても、母親ドナのようにがまんするのが当然だと思い、無理に耐えようとしたことがあった。この件に関して、家族の一員でもあるドーネルは「残念なことに、これは驚くべきことではないんだよ。こんなことが、ごく当たり前のように、あっちこっちで起きているんだよ」と語る。
祖父ドンは、ベトナム戦争で体験したことが、あまりに強烈だったため、それを家族に言えず、そのうえカウンセリングなども受けずにいたため、内向的になり、戦争に行く前とは、全く別の人物に変わってしまった。「ドンは、カウンセリングなどに通うことができたが、あえてそれをやらずに、その苦悩を文面にしていたんだ。これは、家族を心配させないために、個人的に処理しようとしたが、それが逆に家族との絆を遠ざけてしまったんだ」とドーネルが述べた後に、マイケルが「ドンのような心の深い傷は、癒えるのに時間が掛かるんだよ」と付け加えた。
これだけ問題ある家族なのに、まるで火に油を注ぐように、なぜ不良少年のクリスを養子にしたのだろうか。「モーシャー家は、不良少年のクリスを養子にしたことで、クリスと家族の問題を一挙に解決しようとしていたんだ。たが、モーシャー家が予測していたことと、クリスが後に行った犯罪はまったく違う結果になってしまった。あくまでモーシャー家が、子どもの教育のためにしたことなんだよ」と家族の改善を図る行為だったとマイケルが主張した。
祖父ドンの妹デニースが、ベトナム戦争に向かうドンに残した言葉が「死んでしまえばいいのに」だった。ドンは、この言葉が忘れられず、いまだに妹のデニースと、一緒の場所にいることを拒絶する。「デニースは、幻想的な世界に自分を置いて、現実から目を離そうとする傾向がある人なんだ。あの言葉は、彼女にとっては、何気ない一言だったのかもしれないが、同じ家族だけにドンにとっては胸に突き刺さるような言葉だったと思うんだ。もちろんドンは、その言葉だけじゃなく、彼女の現在の行動と、世間に何も貢献していない彼女を嫌って関係を絶っているだけなんだ」とドンの息子のドーネルは語る。同じ家族だけに、その信念は根深く、簡単に寛容になれないようだ。
最後にマイケルは「確かに、自分の家族のプライベートな部分が、公にさらされるのはネガティブな要素がたくさんあると思うが、だが、この映画を公開することによって、見知らぬ観客に理解して欲しいことがあるんだ」と述べた。
モーシャー家は、決して経済的にも恵まれた家族ではないが、問題を抱えながらも、1つ1つ前進しようとしている。1つの家族に、これだけの問題があるのは珍しいが、むしろ問題のない家族というのも存在しない。この映画は、家族という根本にあるものを気付かせてくれる映画になるかもしれない。(取材・文:細木信宏 / Nobuhiro Hosoki)