山田洋次監督・特別功労賞受賞!映画『おとうと』で最後を飾る
第60回ベルリン国際映画祭
20日(現地時間)、日本国内の観客動員が130万人を突破した映画『おとうと』が第60回ベルリン国際映画祭にてクロージング上映され、現地には主演の吉永小百合、山田洋次監督が駆け付け、映画祭のメイン会場ベルリナーレ・パラストで、上映後に舞台あいさつを行った。世界中から集まった観客で満席となった1,600席の会場は、二人のスピーチに盛り上がり、拍手がなりやまなかった。
また山田洋次監督には、同映画祭から特別功労賞(ベルリナーレ・カメラ)が贈られ、クロージングセレモニーの中で授賞式が行われた。日本人の受賞は市川崑監督、熊井啓監督に次いで三人目となる。
ベルリン国際映画祭ディレクターのディーター・コスリックは山田監督を「この巨匠は、すでに7回ベルリン映画祭に出品している日本の名監督です。彼は小津安二郎の伝統にのっとって映画を作っており、大きな愛情をもって日本に住んでいる人々を描き続けています。我々ベルリン映画祭は、彼をここにお迎えすることを光栄に思っています。山田洋次監督です!」 と絶賛した。その言葉を受けステージに上がった山田監督は、「みなさんが今からご覧になる『おとうと』という作品のエンドクレジットに、この映画を市川崑監督に捧げるというオマージュが出てきます。実は市川崑監督が50年前に作られた同じタイトルの作品をヒントにこの映画を作ったのですが、市川崑監督は今から10年前にこのホールで、ベルリナーレで、この賞を受賞しています。だから僕は、今は亡き市川崑監督に『市川さん、僕もあなたと同じ賞をもらいました』と報告したいと思います。僕を選んでくださったディーター・コスリックさん(ベルリン映画祭ディレクター)並びにベルリナーレ関係者の皆様に心からお礼を申し上げます。そして会場のみなさん、どうもありがとう。ダンケシェン(ありがとう)」 と感動的なスピーチを述べた。
また、上映後に行われた舞台あいさつでは山田監督と吉永小百合が登壇し、山田監督は再び感謝の言葉を述べ、吉永小百合はドイツ語でスピーチをして、大きな拍手を浴びた。その後の囲み取材では、あらためてクロージングの一日を振り返った山田監督は、「あんなにすごい歓声、拍手は想像していませんでした。この受賞は一生の記念になると思います。長年の功労に対して贈られたのであれば、みんなでもらった賞だと思う。寺島さんの銀熊も良かったと思う。決して順調とはいえない日本映画だが、こんなことを機会に、日本の時代が来たらいいなあと、今日の拍手を聞いて思いました」とうれしさを語った。
一方、吉永小百合は、「山田監督の授賞式に立ち会えただけでうれしい。あたたかな拍手で胸がいっぱいです。2年前の『母べえ』では、とても悲しい思いをしました。その悲しみが、今回の喜びのための前奏曲だった気がします。わたしにとって市川崑監督は“師匠”、山田監督は“先生”。この尊敬するお二人が同じ賞を受賞されたことは、生徒として、弟子として、とてもうれしいことです。きっと、市川監督も天国で喜んでおられると思います」 と故・市川崑監督に思いをはせた。
『おとうと』の上映を見終わった観客からは「笑えて、最後は涙があふれてきた。素晴らしい作品だった」「心を深く揺さぶられた。」などの感想が聞こえ、家族の物語という普遍的なテーマを扱った作品であるがゆえに、国や人種を越えて多くの人々に受け入れられていた。
また、山田洋次監督の『京都太秦物語』も、フォーラム部門で日本時間19日(現地時間)で上映され、満席の720人の観客を前に山田洋次監督・阿部勉監督、主演の海老瀬はならが舞台あいさつに立った。ベルリン国際映画祭で同じ監督による新作2作品の上映というのは非常に珍しいケースとなる。
映画『おとうと』は、女手一つで娘を育ててきた姉と、大阪で芸人にあこがれながら破天荒な暮らしを送る弟との再会と別れを描く家族ドラマ。10年ぶりの現代劇となる山田洋次監督が市川崑監督の『おとうと』にオマージュをささげ、戦後に生まれ育った姉弟のきずなを娘を通して、現在と今後の日本の家族の姿を映す。主演を吉永小百合が務め、その弟役を笑福亭鶴瓶が好演。笑いと涙にあふれた家族の希望と再生の物語に胸が熱くなる。