パク・チャヌク監督、血みどろ映画を作っているのに、実は血が怖い?
バンパイアとなった神父と人妻が堕ちていく罪深き愛の物語を描いた映画『渇き』を発表したパク・チャヌク監督が、穏やかな口ぶりとは裏腹なドS発言を交えながら、自身の映画の作風を解説してくれた。
カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを獲得した映画『オールドボーイ』を筆頭にした復しゅう3部作で知られるパク監督の作風といえば、登場人物たちが血みどろになりながらも、どこか美しさをはらんだ独特な美意識を感じさせる残虐描写にあると言える。特に本作では、正体不明の血液を輸血され、バンパイアへと変ぼうした敬けんな神父が主人公。しかも人間の血を求めるために、殺人の欲望にかられてしまう自分に悩むという内容である。さぞかしこの題材は燃えたのでは? と思われたが「わたしはほかの人以上に血を怖がっています。わたしの映画の中には暴力描写が多いですが、暴力に対して感じる恐怖心が他人よりも大きいのです。そういった恐怖に悩んでいるため、わたしの映画には血の描写が多く出てくるんでしょうね」と意外な答えが返ってきた。
そんなパク監督の映画の登場人物は、とにかく血まみれになるような悲惨な状況に陥ってしまう。その点について尋ねると、「人は誰でも間違いを犯します。そして間違いを犯したら償わなければいけません。大きな罪なら大きく、小さな罪なら小さくね。そういった問題に敏感な人は、自分が間違いを犯したら、とことん苦しみます。そういう人にわたしは愛情を感じるのです。だから失敗をしてはいけない、罪を犯さないようにしましょうというのではなく、もし罪を犯してしまったら、その行為に対して敏感になろうと言いたいのです」と語る監督の口調は非常に穏やかだが、発言は非常にドSなものだった。もちろん本作の主人公である神父の罪も非常に大きく、それがゆえに相当に悲惨な目に遭ってしまうところも本作の見どころの一つと言えるだろう。
ちなみにパク監督には15歳になる娘さんがおり、本作と同じくバンパイアをテーマとした映画『トワイライト』シリーズの大ファンなのだという。「10代の子たちは、ほとんどわたしの映画を観ないんじゃないですかね。たぶん、観客層は重ならないでしょう。でも実はアメリカで記者会見をしたときに、『あなたはトワイライトのファンですか?』と聞かれたことがありました。だから、わたしは『トワイライトファンの父です』と答えておきましたよ」とちゃめっ気たっぷりに答える顔は、とてもやさしそうだった。
本作は、ソン・ガンホ主演による血と官能とユーモアに彩られた物語。謎のウイルスのワクチンを開発するため、人体実験に志願した神父のサンヒョンが吸血鬼に変ぼうしてしまう。そんな中、人妻のテジュ(キム・オクビン)と出会い、情事の快楽に身を委ねながら背徳の罪を重ねていく。韓国のトップスターであるソン・ガンホがフルヌードになったというニュースが韓国で報じられ、スキャンダラスな話題を提供したことでも話題になった。
映画『渇き』は2010年2月よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開