年末の賞レースをにぎわすこと必至!格差婚リアルに描き高評価!名門ワインスタイン・カンパニーが配給
第63回カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品された『ブルー・バレンタイン』(原題)のデレク・シアンフランス監督、男優ライアン・ゴズリング、女優ミシェル・ウィリアムズがインタビューに応じた。同作品は今年の米国サンダンス映画祭で初披露されるや評判を呼び、映画『イングロリアス・バスターズ』などを手掛けた敏腕プロデューサーのハーヴェイ&ボブ・ワインスタイン兄弟による「ワインスタイン・カンパニー」が配給を買って出た話題作だ。新人監督賞(カメラ・ドール)の対象となっていたカンヌでは賞を逃したが、サンダンスからカンヌへと異例のステップアップを果たしたのは米アカデミー賞2部門を制した『プレシャス』と同パターン。年末の賞レースに向けてどこまで旋風を巻き起こすのか注目されている。
同作品は大学生のシンディと運送業のディーンが恋におちて結婚するも、格差婚などさまざまな問題からやがて破局を迎えるまでを描く悲恋物語だ。シンプルな話ながら観る者を惹(ひ)きつけるのには理由がある。過去のシーンを手持ちで16ミリカメラを回して若いカップルの躍動する姿を追い、現在のシーンをHDカメラで心の中をのぞくように表情を捕え、両者をシンクロさせながら二人の微妙な心の距離を見せていく凝った構成。何より、ドキュメンタリー作品を数多く手がけてきたシアンフランス監督の「リアリティを大切にしたい」という演出意図を組み、ヌードはもちろん、リハーサル一切なしのド派手なケンカシーンも体当たりで演じた役者たちの迫真の演技にある。シアンフランス監督は「オープニングで娘がライアンとミシェルを起こしに行くシーンは、撮影に使った家に本当に1カ月ぐらい住み込んでいたから、前夜に深酒してソファで寝ていたところをそのままカメラを回して撮ったんだ。うそっぽい演技は嫌い。目が腫れてて醜い顔だろうが『このままでいいです』というくらいの、リアルに演じてくれる俳優たちとやりたかったんだ」と言う。
本作のプロジェクトがスタートしたのは1998年夏。両親が離婚しているフランシス監督のトラウマから、物語のアイデアが生まれたという。2003年にはウィリアムズに、2005年にはゴズリングに出演オファーを出し、彼らと何度も話し合いながら脚本を練り上げること67稿!! 2008年にやっと撮影に漕ぎ着けた。ウィリアムズが「初めて脚本を読んだときからずっとこの作品が、私の心を捕えて離さなかった。そこまで思い入れを持てる脚本ってあまりないと思う」と言えば、ゴズリングも「監督とはいろいろ話し合った。何年もかけてこの脚本は進化したという感じ」と心底、脚本に惚れ込んでしまったようだ。
二人の役作りも半端じゃない。過去と現在という約7年間の違いを映像的に見せるため、肉体に丸み出し、ゴズリングは頭髪をすいてオジさん度に磨きをかけた。ウィリアムズは「どっちが太るか体重を量り合ったわよね、私が勝ったけど」とちゃめっ気たっぷりにガッツポーズ。二人が肉体に変化をつけている間の撮影は中断されていたのだが、フランシス監督の号令のもと、様々な役作りイベントが催されたという。ゴズリング「『今日はケンカの日』と言って一日中ケンカをさせられたり、かと思えば予算を決めて買い物に出かけたり、バースでーパーティーをしたり」。そこでウィリアムズが「そうそう、ライアンがおいしいチキンスープを作ってくれたわね」と付け加えると、二人顔を見合わせてハイタッチ。そして劇的なことがあったという。「後半はラブストーリーが壊れていく展開だから、その前に皆で破局のセレモニーをしたの。結婚写真を花火で燃やしたんだけど、ところが! 二人の顔の部分だけハート型に残っちゃったのよね」と、興奮しながら語る二人。演技を超えた、二人の息の合ったコンビぶりが伺える。
劇中、その二人が不仲になった関係を修復させようと、子どもを親に預けてホテルに出かけるシーンがある。それがなんと宇宙空間の内装に回転ベッドが鎮座した、まんま日本のラブホテルなのだ。昨年のカンヌでは共に東京でロケを行った菊地凛子主演『ザ・マップ・オブ・サウンド・オブ・トーキョー』とギャスパー・ノエ監督『エンター・ザ・ボイド』の両作にラブホテルが登場して外国人の興味を惹いていたが、こんなところでジャパニーズ・カルチャーの浸透度が伺い知れるとは驚きだ。フランシス監督に話を振ると「ラブホテルのことはこの作品を撮ってから、日本人の友達に話を聞いて知ったんだ。僕は日本にはまだ行ったことがないんだけど、大好きでね。三船敏郎にアラーキー(荒木経惟)などの文化にしても食べ物にしても、デザイン性を感じるんだよね。街も刺激的に思えるし、その一方で自然も豊かそうだし。あっ、でもこれだけ期待を大きくしちゃうと、行った時にガッカリしちゃうかもしれないなぁ」と初来日に胸を膨らませていた。日本公開は来春を予定。(取材・文:中山治美)