「袴田事件」元裁判官が涙!無実の罪で獄中に行った袴田さんへの判決に悔やみきれず……
18日、有楽町朝日ホールで、映画『BOX 袴田事件 命とは』の完成披露試写会が行われ、萩原聖人、新井浩文、高橋伴明監督そして本作のモデルとなった元主任裁判官の熊本典道氏、劇中で新井が演じる袴田巌氏の姉である袴田秀子氏、そして免田事件(四大死刑冤罪(えんざい)事件の一つ)で冤罪(えんざい)を証明された元死刑囚の免田栄氏らが登壇した。
自分が下した判決によって苦悩する裁判官の姿を通じて、人を裁くことの困難さと命の尊さを描き出した本作。膨大な裁判資料を基に構成された真摯(しんし)な姿勢が高い評価を受け、映画『おくりびと』や『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』に続き、8月に開催予定の2010年モントリオール世界映画祭コンペ部門に正式出品されることが決定した。壇上に立った高橋監督は「おそらく『おくりびと』『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』に続くのかというところに、関心がいくのだと思うのですが、このような、問題提起が前面に出た映画を選んでもらえたことを、今は素直に喜びたいと思います。結果はお楽しみにということで」と決意を新たにしていた。
また、自らが下した判決に苦悩する、熊本主任裁判官を演じた萩原にとっても本作の思い入れは強い様子。「この作品に参加させていただいたことは、俳優としてだけでなく、残りの人生を生きていく上でも大切なものとなりました」と話すと、じっと一点を見つめ、感慨深い表情。そんな萩原と高橋監督は2001年の映画『光の雨』以来のタッグとなる。「彼の仕事に対する向き合い方、誠実さが素晴らしいと思っていました。彼は純粋無垢(むく)な青年から変質者までこなせる希有(けう)な俳優だと思います。何に対しても一生懸命。麻雀好きで有名だが、それは哲学の領域にまで入ってるんですよ。まあ、男女関係に関しては述べませんが(笑)」とジョークを言い、重くなりがちだった会場の雰囲気を和ませていた。
そしてこの日は本作のモデルとなった熊本氏も来場。「映画は非常に真実に迫っておりました。今でもなお、獄中にいる袴田くんの顔が浮かんでくるんですよ。この袴田くんを獄中から救うために一生、心をささげたいと思います」と今も獄中にいる袴田氏に思いをはせると、その瞳に思わず涙が。そんな熊本氏に会場からは自然と拍手が起きていた。そして高橋監督も「早く再審が始まって、袴田さんと刑務所の外で会えたらいいなと思います」とエールを送っていた。
本作は、1966年に実際に起きた「袴田事件」を基に、人が人を裁くということの難しさを描いた社会派ドラマ。『丘を越えて』の高橋伴明監督が、強盗放火殺人事件の容疑で死刑が確定した男と、冤罪ではないかと思いながらも、有罪の判決を下してしまった裁判官の苦難の日々をあぶり出す。裁判員制度が導入された今だからこそ、観ておきたい骨太なドラマだ。
映画『BOX 袴田事件 命とは』は、5月29日より渋谷ユーロスペース、銀座シネパトスにて公開