北野監督「お客をKOした!」公式上映に3分間のスタンディングオベーション!
第63回カンヌ国際映画祭
北野武監督『アウトレイジ』(6月12日公開)が第63回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で現地時間17日、ワールドプレミア上映され、約3分間のスタンディングオベーションを受けた。北野監督は「欧州の映画祭で上映された『HANA-BI』『座頭市』『菊次郎の夏』に続き、今回がベスト4に入るウケ方だったんじゃないかな。一番悲惨だったのが(ヴェネチア国際映画祭の)『Dolls(ドールズ)』(笑)。あの時は拍手がパラッと2、3個来たぐらいで、それに比べたら良かった」と好反応に舌の方も絶好調だった。
前回、カンヌ国際映画祭60回記念作品に参加した時には、レッドカーペットに羽織ばかまとちょんまげのカツラを被って笑いを取った北野監督。今回は「本当は白塗りで現れようと思ったけど(映画祭の)ディレクターに怒られると思って」と、ビシッとタキシードに身を包んで登場。そしてメーン劇場のルミエールに入ると、観客からスタンディングオベーションで迎えられた。
映画は、北野監督が「よくぞカンヌがこの映画でコンペに呼んでくれた。感謝感激」と思わず謙遜(けんそん)してしまうようなエンターテインメント・バイオレスムービー。上映中は、銃以外の凶器で相手をいたぶるようなイタいシーンの連続で、そのたびに客席から悲鳴に拍手、笑いまで起こった。好反応に北野監督は「やった!と思ったね。笑いも起こったでしょ!? 自分も撮ってるときは気付かなかったんだけど、編集してみたら追い込まれた人間の姿が面白いんだよね。人のお葬式とか哀しい場面で、悪魔のように笑いは忍び込むと思って」とニンマリ。
また、ある意味カンヌ名物である、上映中に容赦なく席を立って帰る人もいるが、今回はあまり見られなかった。北野監督は「見事にお客をKOしたという感じで。たぶん、半分ぐらいは席を立ちたかったんだろうけど、KOされて(体が)しびれて立てなかったんじゃないの」と笑った。
だがこの盛況を素直に喜べないのにはワケがある。『菊次郎の夏』(1999)が同じく、同映画祭コンペ部門で上映された際、約15分の熱狂的なスタンディングオベーションを受け、さらにプレスの下馬評も高かったことから賞を期待したが、無冠に終わった痛い思い出がある。北野監督は「あれがトラウマになっていてね。だから賞には何ら期待していないね。でも世間の人は、賞よりも、カンヌのコンペに選ばれること自体がスゴイというのをわかっていないんじゃないかな。700~800本見た中で選ばれるのだから、それだけで栄誉。さらに賞をもらおうだなんて図々しいよ」と賞を期待する周囲をいさめた。
コンペ部門の受賞結果発表は現地時間23日。北野監督はTV番組の生放送のために、結果を待たずに帰国する。今年3月にはフランスの芸術文化勲章の最高賞コマンドゥール授与と、同国の勲章的にはレジオンドヌール勲章の黒澤監督を超えていることを指摘されると「黒澤さんは相変わらず手の届かない存在。でもそのうち黒澤さんのような(演出に)粘りが出れば。黒澤さんを追い越すなんて言うのは図々しいけど、その3,4歩下に位置付けされるようになりたい」と海外での日本映画普及に貢献した先人に敬意を表した。(取材・文:中山治美)