巨匠ウディ・アレンが激白!目指す映画は黒澤明監督の『羅生門』!
70歳を過ぎた今でも、果敢に毎年映画を製作し続けるウディ・アレン監督が、新作映画『ユー・ウィル・ミート・ア・トール・ダーク・ストレンジャー / You Will Meet a Tall Dark Stranger』(原題)について記者会見で語ってくれた。
同作は長年連れ添った夫婦が別れてしまう物語で、アルフィー(アンソニー・ホプキンス)とへレナ(ジェマ・ジョーンズ)と、倦怠期を迎えた夫婦、ロイ(ジョシュ・ブローリン)とサリー(ナオミ・ワッツ)の2つのカップルを中心に、野心、情熱、不安、裏切り、そして愛を織り交ぜながらユーモラスに描いたアレン監督特有のブラックコメディで描く。このほかに、アントニオ・バンデラス、フリーダ・ピントらも共演している。
近年はヨーロッパでの撮影が多いアレン監督だが、ローケションによって脚本の内容を急きょ変更することもあるらしく、「ロケーションは、僕には深い意味合いがあって、これまで何百回もロケーションによって脚本を書き換えてきているよ。例えば、映画『アニー・ホール』の主人公アルビー・シンガーは、最初にブルックリンのフラットブッシュで生まれたタクシーの運転手の息子の設定だったが、撮影前のロケーションスカウトをしている際に、コーニー・アイランド(遊園地)のサイクロン(ジェットコースター)の下に家があるのを発見して、急きょ脚本をそのサイクロンの下で家族と共に暮らす少年に書き換え、父親もコニー・アイランドで働いている設定にしたことがあった」と明かした。
女優ナオミ・ワッツとは、この映画の撮影当日まで会ったことさえなかったらしいが、そういう状況下でもリハーサルをあまりやらないらしく、「僕はリハーサルは嫌いなんだ。だから、いつも優秀な俳優を雇い、彼らにすべてを委ねている(笑)。それに僕は、あまり俳優に話しかけたり、ランチを食べたりして交友関係を俳優と深めるようなことはしないんだ……。無理にそうすると、俳優のアイデアを聞かねばならないからね(笑)。ただ、僕も自分の先入観を俳優に押し付けたりすることもしないよ。今回ナオミが最初に出演したシーンは、かなり感情的なシーンだったが、彼女は難なくこなしてくれた」とアレン監督の特有の演出を語ってくれた。
ほぼ毎年1本は製作しているアレン監督だが、スタンリー・キューブリックのように時間を掛けて製作しようと思ったことはあるのかと尋ねると、「僕はキューブリックとは、全く違ったタイプだね。彼は完璧主義者で素晴らしいアーティストだが、僕はすぐ脚本を書くし、撮影もいい加減だ。夜にディナーの予約が入っていたりしたら、撮影を長引かせずに終えてしまうくらいだからね(笑)。ただ、毎年1本製作しているおかげで、インスピレーションを待たずに、脚本を書けるようになったと思う。生産的になったね。僕は、キューブリックのように1本に時間を掛けて製作するような忍耐がないと思う」と自身は映画を作る上で気持ちの切り替えが早いことを明かした。
アレン監督は今後の映画製作において、「これまでそれなりに良作を作ってきたことはあったが、黒澤明監督の『羅生門』、ヴィットリオ・デ・シーカ監督の『自転車泥棒』、フェデリコ・フェリーニ監督の『8 1/2』のような傑作を作ったことがない。もちろん、そいういう作品を目指して作れるものではないが、多くの仕事をしてきたことで、いつかその境地に達したい」と述べていたのが印象的だった。(取材・文:Nobuhiro Hosoki)