イクメンのディエゴ・ルナ、長編監督デビュー作は早く大人にならなくてはいけなかった子ども描く
第54回ロンドン映画祭で前日イギリス・プレミアが開催された『アベル/Abel』(原題)のディエゴ・ルナ監督が翌10月26日の上映にも登場、質疑応答した。本作はガエル・ガルシア・ベルナルらとともプロダクション・カナナを設立、俳優業だけでなく映画制作にも乗り出したルナの長編監督デビュー作となる。
本作は、父親が家を出たことで精神的なダメージを受ける少年を主人公にした物語。次第に自分が一家の長、はては父親だと思いこむようになる少年は痛ましいが、姉の行儀の悪さを一喝したり、お菓子のタバコをふかしてみたりとコミカルに仕上げてあり笑いながら見られる。
ルナは「父親になった時に、この映画を作ろうと思った」「僕自身は2歳で母を亡くした。親がいなくなって、その用意もないままに、早く大人にならなくてはいけなかった子どもを描きたかった」と本作を説明する。「子どもを持ってみて、わかったんだけど、子どもは母親のものと考えられてしまう。たとえば離婚でもしようものなら、父親に対しては、稼いだ分の半分を養育費として渡して、2週間ごとに会いなさい、という具合さ」「赤ん坊連れで取材を受けたんだけど、いいホテルなのに女性トイレにしかオムツ換えの設備がついていなくて、僕はオムツも換えられない。ウェイターが注文をとりに来て、僕じゃなく女性取材者に赤ん坊にも何かいるかと聞くんだよ。彼女はフランス人だったから、僕の子どもだっていうのは明らかなのに」と嘆く。本作の子どもを母親にまかせきりで家を出る父親については「こんな父親にはなりたくないという父親像なんだ」と良き父親ぶりがうかがえるような発言が続いた。
上映前にあいさつに立ったルナが「上映後の質疑応答には特別なゲストもいるんだよ。エッ、まだ言っちゃだめなの?」と司会進行役に紹介を阻止され残念がるほど心待ちにしていたゲストとは主演のクリストファー・ルイズ=エスペラッザくん。「彼に恋しちゃったでしょ?さもなきゃ、どっかおかしいよ」とルナが紹介する、400人の中から選ばれた子役だ。脚本のアウグスト・メンドッサとともに登場したクリストファーは、通訳の助けをかりながら、懸命に高い声を張り上げて質問に答えた。もともとタレ気味の目を一層下げて、そのクリストファーを見つめるルナは、監督というより父親の顔になっていたようだ。(取材・文:山口ゆかり / Yukari Yamaguchi)