39人中37人が不登校児!定時制高校の4年間を追ったドキュメンタリー文化記録映画優秀賞受賞し公開!
2008年3月に閉校した浦和商業高校定時制の4年間を追ったドキュメンタリー『月あかりの下で ~ある定時制高校の記録~』が文化庁から贈られる文化記録映画優秀賞を受賞したことを記念し、11月27日~12月2日に東京・ポレポレ東中野で凱旋上映されることが決まった。同作品は2007年夏に日本テレビ系「NNNドキュメント」で4回に渡って放映されて大反響を受けたものを、劇場版用に再編集。当初は自主上映の予定だったが、作品を観たポレポレ東中野の支配人が惚れ込み、今夏に急きょ劇場公開がされた。現在、大阪の第七藝術劇場でも上映中だが、感動の輪はさらに全国へと広まりそうだ。
浦商定時制は高校中退者や不登校経験者など問題を抱えた生徒を広く受け入れ、その教育実績には定評があり、全国の教育関係者の中でも知る人ぞ知る有名校だった。太田直子監督が2002年の入学式から4年間、追いかけることになる生徒たちも、39人中37人が中学時代に不登校児だったという。そして彼らは入学後も、何かと問題を起こす。
酒のにおいをプンプンさせて登校してくるオガ。ヤンキーファッションに身を包み周囲に威嚇しまくりのサチコは、ある教師のクラスメイトに対する非礼に激怒して食ってかかる。突然、連絡が取れなくなったのはマリ。彼女は父親の暴力を受け、姉弟4人で児童相談所に保護されていたのだ。そして中学時代にイジメられた過去のあるナオミは、再び人間関係で傷つき、無意識にリストカットを繰り返す……。しかしそんな彼らが、平野和弘先生を中心とした熱心で実に忍耐強い教師たちに見守られ、4年間で大きな成長を遂げるのだ。
平野先生と一緒に、カメラを通して生徒たちを見つめてきた太田監督は「酔っぱらって来たオガなんて、最後は生徒会長にまでなりましたからね(笑)。マリは夜間大学に進学して介護の仕事に就き、サチコやナオミは今や立派なお母さん。『人って変われるんだ』と実感しましたね。私が4年間追い続けられたのも、そんな生徒たちの変化と良い表情が撮れたから。自分にとっても作品を完成させることが、(自身の今後の仕事を占う)希望の光で
した」と振り返る。
しかし太田監督には一つ悔いがある。カメラを回し始めた2002年当時、埼玉県は「いきいきハイスクール推進計画」に伴い、与野、蕨、浦商を廃校し、単位制のパレットスクールである県立戸田翔陽高等学校として統合すると発表。一方的な計画を阻止すべく、教職員や生徒たちが立ち上がる。その対策の一つとして、浦商の必要性を世間に広めて賛同者を集めるべく、教員仲間から太田監督の元に密着取材の依頼が届いたのだ。太田監督は早速カメラを回し始めると同時に、テレビ局に企画を売り込んだがなかなか興味を示してくれる局はない。そうして奔走している間の2004年9月に統廃合が決定してまった。ドキュメンタリー「テージセー~1461日の記憶~」のタイトルで2007年に放送されたが、時すでに遅しだったのだ。
太田監督は「関係者に『何のために撮影に来ているの?』とか、『なんでTVでもっと早く放映出来なかったの?』と言われたのは辛かったですね。でも彼らの在校中にTV放映していたら、今まさに人間関係などで傷付いている彼らを世間にさらすようで悩んだと思います。きっと映像もモザイクだらけになっていたでしょうね」と説明する。
じっくり追った分作品は、生徒達の問題だけでなく、弱き人や本当に窮地に立たされている人の声が役人に届きにくいという日本社会の現状を見事にあぶり出す結果となった。浦商で更生したという鑑別所上がりの卒業生や在校生たちが教育委員会との会合で、涙ながらに統廃合撤廃を訴える場面は、彼らの怒りと悔しさがダイレクトに伝わって来てもらい泣きすること必死。また児童相談所に保護されたマリが義務教育を終えていることを理由に、高校を中退して就職しなければならないという問題も浮上する。児童虐待事件が社会問題化している今、子どもの将来を見据えた真の対応が問われてそうだ。
太田監督は、「今現在、不登校などで苦しんでいる人たちにこの映画で勇気づけることが出来れば嬉しいですね。何より彼らに、こうして一緒に頑張ってくれる仲間や先生たちがいることを知って欲しい。浦商の卒業生が皆、こう口にするんです。『学校が生きる希望の場だった』と。残念ながら浦商の統廃合を阻止することは出来ませんでしたが、そういう豊かな教育の場が今後は潰れることのないようにと、この映画で応援したいと思います」と力強く語った。(取材・文:中山治美)