過去に死亡や行方不明者が続出した戸塚ヨットスクール!刑期を終えた校長の教育信念とはいった何か?
14日、四ツ谷の上智大学で上智大学&東京大学ゼミ企画「徹底討論 ドキュメンタリー、その問題提起力~映画『平成ジレンマ』上映をめぐって~」が開催され、『平成ジレンマ』のメガホンをとった齊籐潤一監督、TBS報道局記者で「ニュース23 X(クロス)」メインキャスターの松原耕二氏、朝日新聞編集委員の大久保真紀氏、上智大学文学部新聞学科教授の碓井広義氏ら論客が集まり、激論を戦わせた。
本作は、1980年代初頭に、訓練生の死亡や行方不明事件などで世間を騒がせた戸塚ヨットスクールの軌跡と現在を追ったドキュメンタリー。会場は事件を知らない若い学生が多数集まり、衝撃的な映像の数々を息を呑んで見守った。そもそも齊籐監督がこの題材を描こうと思ったのは、2006年に刑期を満了した戸塚校長が「また明日から校長に復帰する」とコメントしたことにあるという。「自分だったらあんなところに子どもを入れたくないし、なぜ戸塚ヨットスクールをやろうと思ったのか」という疑問から、戸塚ヨットスクールに密着。テープで500本、400時間以上という膨大な記録の中から、希代の悪役と呼ばれた戸塚宏に迫っている。
かつては不良少年を更生する施設だったスクールも、現在はニート、引きこもりの更正施設として機能。齊籐監督は「学校でもだめ、相談所でもだめ、病院でもだめ。どこにも行き場のなくなった人が唯一すがれるのがここしかないんです。それは30年前から変わっていない」と現状を訴える。そして本作を作るモチーフについても、「僕は体罰を肯定してるわけでも否定しているわけでもない。でもこれはマスコミの反省でもあるんですが、バッシングだけして、二元論にするのはどうなのかと思う。戸塚ヨットスクールと聞いて拒否反応を起こす人もいると思いますが、少なくともここからも教育の点で学ぶべきものがあるんじゃないかと感じました」と本作の制作意図を語った。
しかし監督は「最初に会ったときも、1時間くらいマスコミが教育を悪くしたと批判をぶちまけて。もうこれは受けてくれないなと思っていました。取材が入れば、バッシングされる危惧(きぐ)もあっただろうに、なぜ戸塚さんが密着取材を許可してくれたのか。脇の甘い人なのか、懐の深い人なのか」と疑問を持ったそうだ。映画を観た戸塚校長は齊籐監督に「ありがとう」と一言だけ伝えたそうだが、「果たしてあのありがとうにどんな意味があったのか」と疑問を持つ監督。知れば知るほど謎が深まる戸塚宏という人間に、会場も興味深々な様子だった。
本作は、傷害致死罪などで裁かれ服役した後も、問題を抱えた子どもたちと向き合い続ける戸塚宏校長と同スクールの今に迫りながら、引きこもりやニート、教育現場の荒廃など現代社会が抱える闇を浮き彫りにする。劇中では戸塚校長が「体罰をやめたら、先生よりも子どもが偉いというとんでもない世界になったじゃないか!」と現状を批判するなど、モンスターペアレンツや学級崩壊が叫ばれる現在の教育現場に一石を投じる内容となっている。
映画『平成ジレンマ』は2月5日よりポレポレ東中野ほか全国順次公開