アカデミー賞レースの知られざる側面!4人目プロデューサーのオスカー争奪戦
第83回アカデミー賞
このほど、マーク・ウォールバーグ主演の話題作『ザ・ファイター』のプロデューサーの1人、ライアン・カヴァナーがアカデミー本部である映画芸術科学アカデミーへの上訴を重ねた末、結局同作のプロデューサーとしてのクレジットを認可されなかったというニュースが業界内で非常に大きな話題になった。「クレジットを認可されなかった」というのは、もし作品がアカデミー賞候補となったとき、アカデミー授賞式でライアンの名前をプロデューサーの1人として連ねることを許可しない、ということである。映画のクレジットには彼の名前が正々堂々プロデューサーとしてしるされているのに、どうしてアカデミー本部からは認められなかったのだろうか?
アカデミー賞作品賞を獲得したときに、オスカー像を受け取るべくステージに上がれるのは、アイデアのころから作品を育て、資金を集め、製作を指揮して、公開にまで持っていった最重要責任者「プロデューサー」と呼ばれる人たちである。プロデューサーたちは、主演男優や撮影監督などとは異なり、映画1本につき2人以上いるのがほぼ当たり前。ちなみにアネット・ベニング主演でアカデミー候補入りの呼び声も高い映画『キッズ・オールライト』などは、通常のプロデューサー以外に、製作総指揮や共同製作を務めた人たちを含めて、総勢20人ものプロデューサーが存在している。
ここハリウッドでは、ネコも杓子(しゃくし)もプロデューサーになるといった風潮があり、そのためアカデミー本部は、作品賞受賞のさい、壇上でオスカー像を手にできるプロデューサーの数は3人のみ、という規則を設けている。しかしその結果、作品にそれ以上のプロデューサーがいる場合は、同じ作品で苦労を共にした仲間の間でオスカー争奪戦が始まることになる。
映画『ザ・ファイター』がその良い例だ。6人のプロデューサーによって製作されたこの映画は、アカデミー賞受賞時には、3人のプロデューサーが必然的に涙をのむ羽目になる。だがここで黙っていなかったのが4人目のプロデューサー扱いとなったライアン・カヴァナーだったのである。
彼は、もし4人目のプロデューサーが他のプロデューサーと同等の働きをしたのであれば、事と次第によっては例外としてクレジットが認められるということを知っていた。だが、この権利を得るには作品製作関係者からの目撃証言や主演俳優や監督などからの嘆願書などをそろえて4人目のプロデューサーが、作品にとっていかに必要な人物であったかということを証明しなければならない。このような裁判もどきの査定を経て、アカデミー本部が例外となる4人目プロデューサーを承認するか否かの決定を下すわけである。
今年は、『ザ・ファイター』のほかにも『ソーシャル・ネットワーク』そして『ブラック・スワン』が4人目のプロデューサー争いの最前線に立った。『ソーシャル・ネットワーク』と『ブラック・スワン』はアカデミー本部への訴えが通り、例外的に4人目のプロデューサーが認められた。その決定を聞いたライアンは期待に胸を膨らませていたようだ。しかし、無残にもクレジットを認める許可は下りなかった。
この決定の後、いつもはインタビュー好きで知られるライアンは、完全なノーコメントを貫いており、ずいぶんと落胆しているのでは、とのうわさもある。アカデミー側も、この決定に関しては固くコメントを拒否しているが、許可は下りなかったのは、『ザ・ファイター』の監督やその他製作関係者の中の2名が「ライアンを撮影現場で見たことはない」と証言したためではないか、といわれている。
全米プロデューサー協会では、協会賞を決めるにあたり、特別な調査員を任命して、候補に挙がっているプロデューサーの実際の仕事ぶり、重要度などを調査してから賞を決定するという。映画芸術科学アカデミーはこういった細かい情報は公表しないのが常だが、彼らの個人に対するスタンスは、政治と同様にかなりの根回しがものをいうという話もあり、ライアンに対する決定には各方面から賛否が飛び交っている。
アカデミー賞ノミネート作品の発表は2011年1月25日(火)現地時間午前5時30分、アカデミー本部サミュエル・ゴールドウイン劇場にて行われる。日本ではWOWOWにて2月28日(月)午前9:30より放映
(文・取材: アケミ・トスト/Akemi Tosto)