『刑事ジョン・ブック』『トゥルーマン・ショー』の名匠監督ピーター・ウィアー、名作が生まれるまでの道のり明かす
映画『刑事ジョン・ブック/目撃者』、『いまを生きる』、『トゥルーマン・ショー』などを手掛け、これまでアカデミー賞監督賞に4度もノミネートされたことのあるオーストラリアの巨匠ピーター・ウィアー監督が、名作と共に過去を振り返った。
まず、子どものころに影響を受けた映画は「僕らは土曜日の午後の映画と呼んで、その時間帯によく映画を観ていた。初めはウェスタン映画、ギャングスター映画、そして他の若者と同じようにホラー映画にもハマっていったよ。ただ、そんな中でオーストラリアのチャールズ・ショーヴェル監督が描いた映画『ジェダ・ジ・アンシヴィライズド (原題)/ Jedda the Uncivilized』に衝撃を受けたんだ」とオーストラリアの部族や原住民を描いたストーリー構成に驚いたそうだ。ちなみに初めて観た海外の作品は映画『恐怖の報酬』だそうだ。ただ、このころはまだ映画界に入ることは考えていなかったそうだ。
いったんテレビ業界で働いたピーター監督は映画界に入り、映画『ピクニックatハンギング・ロック』で世界中から高い評価を受けた。だが次回作となった映画『ザ・ラスト・ウェーブ (原題)/ The Last Wave』(1977製作)の製作の前に、なんとスタンリー・キューブリック監督からある提案を受けていたそうだ。「当時、僕とジム・マッケルロイ(ピーター監督の初期作品をプロデュースしていた人物)が、次回作の資金繰りのためにロサンゼルスにいたときに、ワーナー・ブラザーズの重役との会合でスティーヴン・キングの作品『呪われた町』の監督をしないかと勧められたんだ。さらにその重役から、『これはスタンリー・キューブリック監督が君に監督するようにと提案してきたんだ!』と言われたんだよ」と語った。それまで立ってこの話を聞いていたピーター監督は、座らなければ落ち着かないほどだったらしい。いったん製作を引き受けたピーター監督は「それからシャトー・マーモント・ホテルで1か月もの間、この『呪われた町』の制作を進めていたが、どうしても自分にはこの作品の監督が合わない、製作することも不快であるからとして降板してしまったんだ」と尊敬するキューブリックの提案を台無しにしてしまったそうだが、その選択には後悔しなかったようで「当時、まだアメリカのシステムに慣れていなかったとも思うんだ」と明かした。
映画『危険な年』で女性ではなく、男性カメラマン役を演じてアカデミー賞助演女優賞を獲得したリンダ・ハントのキャスティングについては、「シドニーで、この映画のリハーサルを撮影の5、6週間前に行っていたが、あれはかなりヒドいものだったんだ。主役を演じたメル・ギブソンでさえもこの男性カメラマン役を任された俳優に対して、『僕なら彼とは働かないね。彼と仕事をしているとすごくイライラさせられるよ!』と僕に言ってきたほどだった。結局、この俳優には出演料だけ払って、別の俳優をキャスティングすることにしたんだよ。それから、いろいろな俳優をたくさん見たが、なかなか決まらずいたときに、キャスティング・ディレクターが俳優のプロフィールを掲げて、すべての条件が揃っている俳優が居るよ!と言って、その後に、ただそれは女性だけれどねと言ってきた。実はそれがリンダだったんだ。僕らは、それからなんとなく彼女に対して興味深くなって、彼女をN.Yでキャスティングを行っていたさいに呼び寄せたんだよ」と述べた。そして、脚本を気に入ったリンダは男性役を引き受けることになったそうだ。ただ出演の契約のさいに、この役を女優であるリンダが演じていることを明かさないという約束でサインさせたそうだ。
ハリソン・フォードは映画『刑事ジョン・ブック/目撃者』と映画『モスキート・コースト』、メル・ギブソンは映画『誓い』と映画『危険な年』、そしてジム・キャリーは映画『トゥルーマン・ショー』で、それまでの彼らの持っていたイメージを払拭させる役でキャスティングさせたことについて、「おそらく彼ら3人とも、僕がそれまで製作してきた作品を観て、ハリウッドにはないものを見出していたと思うし、さらに彼ら自身も変化したいと思っていたはずだ。ハリソンの場合は、このころ映画『スター・ウォーズ』シリーズや映画『インディ・ジョーンズ』シリーズ以外の作品では、目覚ましい成功を収めていなかった。彼とは思いがけない出会いだったと思っているよ。メルは、最初の『誓い』で喜んで参加してくれたが、トラブル続きの『危険な年』は、当時は出演したくなかったとも言っていた。だが、このころ映画『マッドマックス』のイメージの強かった彼を、この2つの作品が演技派でもあることを証明させたと思っているよ。一方ジムは、リスクを背負うことを進んでやっていたと思うんだ。僕はクリエイティブな分野での成功に一番の悪影響なのは、保守的になってしまうことだと思っている。それに、失敗するからこそ自分らしく居られる。失敗は活力と思うべきなんだ」とリスクを背負ってチャレンジしたこれらの俳優をたたえた。
近年は時間を掛けて製作をしてきたピーター監督の新作は『ザ・ウェイ・バック(原題) / The Way Back』で、第二次世界大戦の最中、シベリアの強制収容所を脱出し、自由を求めて極寒の中、4,000マイルという距離を踏破した人たちを描いた実話の作品だ。
(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)