日本の4時間38分の大長編『ヘヴンズ ストーリー』がベルリンでチケット完売!
第61回ベルリン国際映画祭
2月11日(現地時間)、第61回ベルリン国際映画祭フォーラム部門で瀬々敬久監督の大長編映画『ヘヴンズ ストーリー』が上映された。4時間38分の長丁場にもかかわらず満席となった会場で、瀬々監督と撮影の鍋島淳裕が質疑応答した。
「自分の手で犯人を殺す」という実際に過去に起こった事件での遺族の言葉にインスパイアされ製作したと瀬々監督が説明する本作は、個別に起きた2つの事件の、殺された者、殺した者、その家族、周辺の人々が交差することで意外な展開を見せる。9つの章からなり、前半は登場人物それぞれを主役にしたオムニバスのようだが、後半では1つにまとまりダイナミックに転換していく。
「これまでに印象に残った場所を登場させた」と監督がいう、団地街の桜並木、廃墟となった住宅地、海に囲まれた町なども、効果的な背景となっている。四季がそれぞれの章でモチーフともなっていることについて「長い時間の中での人々を描くということで、人生に寄り添うように撮りました」と鍋島はコメントする。監督は廃墟について「昔、廃墟を撮る写真家にインタビューした時、建設中の建物も撮っていたその人が、作られている途中と、壊れていく途中は、一瞬をとらえると同じように見えると言ったのが印象的だった。生まれていく瞬間も老いていく瞬間も一瞬でとらえれば同じように見えるのではないかと思いました」、「この映画にはそういう発想があって、善と悪や生と死も2つにセパレートして考えるのではなく、どこか逆転したり、入れ替わったりする瞬間があるのではないかという気持ちで作っているところがあります」と語る。「まだ自分の中でもわからないところがある。だからまだ映画を作り続けます」と大きなテーマにチャレンジする監督らしい意気込みを見せた。
大長編となった本作の制作費については、主演の寉岡萌希が女学生の主人公を演じられるうちにというタイムリミットから見切り発車で撮り始めたことを告白、まだ回収できていないという。日本の映画状況について「大小二極化しています。大きな会社では大金をかけて作り大金をかけて宣伝して回収できるし、小さい予算の作品は回収もたやすい。中間の作品が難しい。残念なことに、この作品は中間の作品です」と落ちまでついた。
映画『ヘヴンズ ストーリー』は現在全国順次公開中。(取材・文:山口ゆかり / Yukari Yamaguchi)