性同一性障害アーティスト、ピュ~ぴる、男性から女性に変化していく心と体への葛藤
男性だった自分に違和感を持つ、性同一性障害の現代アーティストが、次第に女性へと変わっていく8年間の軌跡を追い掛けたドキュメンタリー映画『ピュ~ぴる』。ロッテルダム国際映画祭を筆頭に数多くの海外の映画祭に招待された本作を監督した松永大司監督、そしてイタリア版「VOGUE」誌などで取り上げられるなど世界的な評価を受けている現代アーティスト、ピュ~ぴるが自らをさらけ出して生きていくことについて語った。
手作りの個性的なコスチュームをまとい、それぞれのキャラクターになりきるというパフォーマンスを特徴とするピュ~ぴる。男性なのか女性なのかわからない、カラフルで摩訶(まか)不思議なキャラクターたちは、ポップでかわいいのだが、同時に決して相手にこびようとはしない挑発的な雰囲気も感じさせる。
劇中で、ピュ~ぴるは、長く抱えていた肉体への違和感を解消するため、去勢手術に臨み、自身に女性ホルモンを投与。さらに美しくなるために顔の整形手術などを施していく。映画の中でも紹介される「SELFPORTRAIT」と題された作品群では、まるで少女のような乳房、去勢手術後の男性器、整形手術の傷あとなど、己の変わりゆく姿を、写真という形で赤裸々に記録していく。普通なら人に隠しておきたいであろうことを、なぜここまでさらけ出せるのか。「基本的にうそが嫌いなんです。映画でも、ここは使わないでとか、これは撮らないでなんて言ったら伝わらないじゃないですか。取り繕ったところで、どうせネットなどでいろいろと暴かれたりするんですから。わたしはアーティストだからしがらみもないし、だったら先に出してしまえばいい。今さら隠すことは何もないからですね」とその理由を語った。
そんな一人のアーティストの力強い姿を描いた本作は、海外の観客からも「ここまで自分をさらけ出せるなんて勇気がある」との賛辞が集まったという。「弱いから逆にさらけ出すんですよ」と語るピュ~ぴるだが、時に傷つきながら、それでもその先にある何かを変えようと模索する姿は、セクシャリティーの壁を乗り越えるという個人的な命題をはるかに越え、人が勇気を持って行動するということについて、考えるきっかけとなりそうだ。
くしくもテレビ業界では、マツコ・デラックスなどのおネエ芸人がブレイク中。世の中の偏見は少しでも薄れてきているのだろうか。ピュ~ぴるは「昔に比べれば、ある一面ではそうだと思う」と認めつつも、「ただ、日本では性同一性障害に対する理解はまだまだなので、その辺に関しては文化的に遅れているなとは思いますね。同性婚もまだ認められていませんし」と偏見は根強いと語り「まだまだ多くの人が自分のビジュアルやセクシャリティーに自信がない。わたしだってまだコンプレックスはあるし、特にセクシャルマイノリティーには、すごく繊細な方たちも多いんです。テレビに出演されている方がたは全体からしたら本当に一部なんです。もちろん彼女たちも繊細なんですが、覚悟や意志を持っている方は、精神的にも強い側面も備えています。私が見ているのは自信を取り戻せない状況に居る人たちです。心がナイーブな人たちが、生きやすい世の中になっていく一つの歯車とこの映画が、なればいいなとは思っています」とマイノリティーに属する人たちを応援するという決意を、穏やかに語った。
また、本作を手掛けた松永監督は、ピュ~ぴるをただのエキセントリックなアーティストとしてとらえるのではなく、あくまでも一人の穏やかな人間として描き出した。「確かに編集次第で、いくらでも奇妙な形に撮れたと思います。でも奇抜なものを作っている人間が、実はみんなと同じような悩みを抱えているんだと伝えることが、やはり人間的だと思うんです」と本作のスタンスを語る監督。性同一性障害、去勢手術といったセンセーショナルな話題が先行しがちな本作であるが、映画を観れば「自分らしく生きていくためには、どうすればいいのか」という、誰もが抱く思いについて描いている作品なのだということに気付かされるはずだ。
映画『ピュ~ぴる』は3月26日より渋谷ユーロスペースほかにて公開