ラース・フォン・トリアー監督らによるプロジェクト作品がイースト・エンド映画祭に登場
イギリスはロンドンで開催された第10回イースト・エンド映画祭で、アンドレア・アーノルド監督映画『レッド・ロード(原題)/Red Road』の上映と関係者の質疑応答が行われた。本作は、アーノルド監督を世に送り出すきっかけとなった企画、トリロジー(三部作)・プロジェクトの第1弾作品だ。
プロジェトを企画したラース・フォン・トリアー監督の映画『アンチクライスト』写真ギャラリー
「アドバンス・パーティー」と名づけられたこのトリロジー・プロジェクトは、イギリスとデンマークの映画人によるもので、映画『アンチクライスト』などで知られるラース・フォン・トリアー監督、『17歳の肖像』のロネ・シェルフィグ監督、短編映画『エレクション・ナイト(原題)/Election Night』でオスカーも獲得しているアナス・トマス・イェンセン監督の3人のデンマーク人監督に、イギリスの映画プロデューサー、ジリアン・ベリーを加えた、4人による企画が始まり。シェルフィグ監督とイェンセン監督が作ったキャラクターとその背景を用いて、3人の新人監督がそれぞれの異なる映画として発展させていくというものだ。
そして、トリロジーの第1作目となったのが、アーノルド監督の映画『レッド・ロード(原題)』。CCTV(監視・防犯カメラ)の映像を管理する女性を主人公にしたスリリングな作品で、映像の中に見つけた憎い男を追ううちに明かされる彼女の悲劇的な境遇と、殺伐としたCCTVの映像が印象深い。2006年にカンヌ国際映画祭でお披露目され、審査員賞を獲得するなど高い評価を受けた。アーノルド監督は次作『フィッシュタンク~ミア、15歳の物語』(日本未公開)でも各国の映画賞を総なめに。プロジェクトは第1弾を成功させたばかりでなく、大型新人監督を世に出すきっかけになったとも言えそうだ。
また、トリロジーの第2弾となるモラグ・マキノン監督映画『ドンキーズ(原題)/Donkeys』も本映画祭で上映された。老いを自覚し、残りの人生に思いをはせ、軌道修正をはかるも裏目に出てしまう男性を描き、人生の悲哀をにじませた作品になっている。トリロジー第3弾は現在製作が進行中とのこと。
そして、関係者による質疑応答に登場したのは、全トリロジーに出演予定の女優ケイト・ディッキーとプロデューサーのアンナ・ダフィールド、そしてマキノン監督からなる女性チーム。ディッキーは『レッド・ロード(原題)』では主人公を、『ドンキーズ(原題)』では、それとは知らず自分の弟と出会い、惹(ひ)かれてしまうことになる姉を演じている。トリロジーの全編に出演することについて、ディッキーは「(トリロジーに登場する)キャラクターは、背景が同じというだけで同一人物ではないの。1作目では赤の他人だったマーティン(・コムストン)と、2作目では姉と弟になったり、ちょっと混乱しちゃうわね」と語り、さらに「トニー(・カラン)も『ドンキーズ(原題)』にちゃんと出ているのよ」と第1弾ではかたき役だったトニーの、2作目の出演シーンを説明。主要人物を演じた俳優が、次の作品では端役に回るなど、チームとしてプロジェクトに取り組んでいる様子を語った。
同一の出演者を起用することになるトリロジーの製作で、唯一重なることがないのが監督だが、マキノン監督は、製作中アーノルド監督とも頻繁に連絡を取って、アドバイスを受けていたことを明かした。本プロジェクトは、新人監督の育成にも大きく貢献するものとなっているようだ。(取材・文:山口ゆかり / Yukari Yamaguchi)