「布川事件」無罪だけでなく、結婚まで勝ち取ったショージとタカオに江川紹子「50代希望の星」!
27日、千代田区駿河台の明治大学リバティータワーでドキュメンタリー映画『ショージとタカオ』の主人公であり、「布川事件」の犯人として29年間にわたる獄中生活を余儀なくされた桜井昌司氏と杉山卓男氏の無罪判決記念イベント「ショージとタカオ、冤罪と人生を語る」が開催され、桜井氏と杉山氏のほか、月刊「創」編集長の篠田博之氏、ジャーナリストの青木理氏、布川弁護団弁護士の山本裕夫氏、足利事件元被告の菅家利和氏、そしてジャーナリストの江川紹子氏が登壇。桜井、杉山両氏が無罪を確定した気持ちを晴れ晴れと語った。
1967年8月30日、茨城県北相馬群利根町布川で起きた初老男性の殺人事件「布川事件」の犯人として浮上した桜井氏と杉山氏。2人が犯人だという「筋書きありき」で取り調べを進める検察および警察は、2人に自白を強要したという。裁判では一貫して無実を訴えた2人だったが、証拠の矛盾や、無罪につながる証拠に裁判官たちが触れることはなく、1978年に最高裁で無期懲役が確定した。しかしその後、あきらめずに再審請求をし続けてきたかいもあって、2009年に事件の再審が決定し翌年7月には再審公判が開始。今年の5月24日に晴れて二人に無罪判決が出たことを受け、判決後初となるトークイベントが行われることになった。
無罪を勝ち取った心境について杉山氏は「無罪判決は予想していましたけども、裁判官に無罪と言われたときはうれしかったですね。身体が軽くなって肩の荷がおりました。勝つっていいですね」と喜びを語った後、笑顔で「今日は皆さんの質問に包み隠さず答えます。嘘の自白はしません」と冗談交じりにコメント。1993年と早い段階から本事件に興味を抱き、無罪を確信していたという江川氏は、「お二人は冤罪(えんざい)事件の希望の星だと思っています」とその苦労をねぎらった。
今回の事件で特に問題となるのは、警察・検察が密室で取り調べを行い、無罪につながる証拠を隠ぺいしたため、検察官が虚偽の答弁をし、取調官が偽証をしていたという点。さらに、裁判官が彼らの調書をうのみにしたことが冤罪を生む温床となった。くしくも江川氏は、自身がメンバーであった「検察の在り方検討会議」において、こういった流れを変えようとするため、取調べにおける全過程の可視化を提言していた。しかし元警察庁長官や元検事総長ら数名のメンバーによる猛烈な反対により、その提言は織り込まれなかった。これには江川氏自身もじくじたる思いだったようで、「この会議では、取り調べの可視化プラス何を積み上げられるかということが期待されていました。しかしこれを進めるのはかなり難しいものでした」と語りながら「皆さんの期待通りにならなかったのは、本当に申し訳ない」と悔しそうな表情。しかし、「裁判所が変われば検察、警察が変わりますよ。残念ながら一気に改革を進めるのは難しいですが、ルールを作ればいい。あの方たちはルールを大事にしますから」と続け、現状を打破するための決意を語った。
事件によって43年という歳月を失ってしまった桜井氏と杉山氏だが、もともと悪ガキだったという二人には悲壮感は少ない。仮釈放された後、50代を過ぎてそろって伴侶にまで恵まれた。「若いころは悪さばかりしていて、学歴もない。あるのは殺人事件の元容疑者という肩書だけ。そんな人間が結婚なんて出来るはずないですよ。女性の後ろ姿を見ては、俺は結婚できないなとあきらめていました」と桜井氏。しかし「決してあきらめない」と歯をくいしばる彼らの姿にほれこんだという女性が現れたのだという。杉山氏は「(刑務所の)中にいたときは結婚できるなんて思っていなかった。それがあっという間に子どもまで出来て、夢のようだよね」と家庭を持てたことの幸せを語った。そして、そんな二人の姿に江川氏は思わず「わたしも希望を失わないようにしないと」とコメントし、会場は笑顔に包まれた。(取材・文:壬生智裕)
映画『ショージとタカオ』は新宿K's cinema、横浜ニューテアトルにて公開中