東宝の新社長に島谷能成氏が就任 映画館の今後は? 夏場の節電による影響は大きな変更なし デジタル化も急務
31日、東宝株式会社の新社長に就任した島谷能成(しまたに よししげ)氏の就任記者会見が東京會舘で行われ、映画業界一筋で生きてきた思い出を振り返ったほか、映写方式のデジタル化や東日本大震災が今後の映画業界に与える影響を語った。
島谷氏は1975年に京都大学を卒業後、東宝株式会社に入社。1979年より営業本部宣伝部、1990年より映画調整部に勤務。2005年には専務取締役に就任し、2011年5月より高井英幸前社長の後を引き継いで新社長に就任した。宣伝部時代に担当した主な作品に『復活の日』『連合艦隊』『ひめゆりの塔』『居酒屋兆治』、映画調整部時代には『夜叉』『四十七人の刺客』『模倣犯』などがある。
「映画業界で働いてきて、一度も退屈な思いをしたことがない」とこれまでの仕事人生を振り返った島谷社長。「企画という言葉が大好きで、考えただけでワクワクする。自由な組織にして、毎日いろいろな新しいアイデアが生まれる会社になってほしい」と今後の展望を語った。だが同時に映画ビジネスの難しさとして「面白かったけど難しかった。それは観客の存在で、お客様からはぐうの音も出ないような厳しい千本ノックを受けてきた」と観客の心をつかむことの難しさを明かす。「映画でビジネスをするなら最低でも100万人以上の方に映画館に来ていただきたいが、100万人の意思や思いを推測するのは大変難しいこと。それは今も続いていると思う」と新たに気を引き締めていた。
また島谷社長は、東宝が抱える直近の課題として、全国のシネコンで映写方式がフィルムからデジタルに変わっていることを挙げ、「作品の企画がどう変わっていくか。サッカーのワールドカップの試合や、AKB48の総選挙の模様を中継上映するなど、シネコンの使い方も登場するコンテンツも変わっていく。それに応じた企画をどれだけ作り出せるかが中長期的な課題です」と映画業界が迎えている転換期への対応が急務だと語った。
3月11日に発生した東日本大震災の影響については「夏場の計画停電や節電はシミュレーションをしている最中だが、あまり大きな変更なく興行を続けられるのでは」としつつ、「政府の見解がこれからどう変わるかわからないし、シネコンは商業施設の中に入っているからほかとの兼ね合いもある。映画館にとって夏休みは最大のビジネスチャンスなので、お客様に暑い思いをさせずに興行ができれば」と楽観できない状況であることを明かし、具体的な節電方法も固まり次第発表するとした。そして今年から徐々に導入を始めているTOHOシネマズ割引料金体系については「震災もあってお客さんの動向も変わり、確たるデータは出ていない。秋くらいから分析を始めようと思っているが、ひょっとすると元に戻すかもしれないし、もっと踏み込むかもしれない」と現時点での名言は避けた。
やや緊張した面持ちで会見に臨んだ島谷社長だったが、同氏がかかわった『夜叉』で主演を務めた俳優・高倉健の話題が出るとその表情は和やかに一変。「高倉さんにお会いして、俳優としてだけではなく、人間としても男としても影響を受けました。今もなお尊敬の気持ちは変わっていません」と語り、今後高倉健が東宝映画に出演する可能性については「高倉さんに最適の企画があれば。そのときは多少私情を挟んで判断したい」と笑顔でコメントした。(肥沼和之)