局部ぼかしの自主規制とはいったい何なのか?園子温×香港の鬼才パン・ホーチョン、おかしな表現規制との闘い
無差別殺人を繰り返すOLの凶行を徹底して残虐に描いたバイオレンス・スリラー映画『ドリーム・ホーム』の香港映画界の鬼才パン・ホーチョン監督と『冷たい熱帯魚』で世界的な評価を得た園子温監督が、表現の規制の中でどのようにバイオレンスと性的な表現を描いているのかを語り合った。
日本の映倫は法的な規制はないため、審査に通らない映画も上映することは事実上可能だが、上映する映画館がかなり限定的になり興行成績にも響く。そのため興行的な成功のためには映倫の審査に合格することは必須だ。映倫の上限はR18+(18歳以上が鑑賞可能)で18歳以下は鑑賞を制限している。そんな中、園監督の『冷たい熱帯魚』はR18+で最も厳しい制限。『ドリーム・ホーム』も同じだ。
両監督は、本来自分の描きたい表現と規制の狭間で苦労していることを明かし、クリエイターとしてのリアリティー追求のポリシーを貫き通せないことが多いという。
パン・ホーチョン監督が映画で追求しているリアリティーは、『ドリーム・ホーム』を作るにあたり特に徹底したという。主演でもありプロデユーサーでもあるジョシー・ホーと話し合い、「暴力シーンを反対する人もいるが、そういう意見は無視しよう。これはスプラッターありきでやろう。暴力と血の描写をハイレベルにしよう」と決めたという。
パン監督が子どものころに観ていた映画で人が死ぬシーンが、悪い意味で印象に残っていたらしく、「わざとらしくて偽物だとわかったので、今回撮るなら徹底的に技術もこだわってハイレベルなものを作り上げようと思った」と描写へのこだわりを明かした。
そうして出来上がった作品は香港以外の世界各国の映画祭でノーカット上映された。パン監督は香港の規制について「香港では、勃起した性器を映してはいけないと言われた。それはもう身体の一部じゃないから勃起したとは言えない、とかなり長くケンカしましたが、譲ってもらえなかった。ただ、そのシーンを撮るために技術スタッフと『どういう風にしたらリアルになるか?』と長く研究したのですごく悔しかったです」と明かした。
アジアはやはり、世界の中でもそうした表現に対しては消極的だ。日本もその一つ。
園監督も常にそのジレンマとは対峙しているようで、この話には同意。「僕もたくさんの映画で男性器を切り離す映画を撮っていまして、『冷たい熱帯魚』でもそういうシーンがあって。前の映画では勃起状態だったのでぼかしを入れさせられたんですが、今回は柔らかかったので、ぼかさなくて良かったです」とまるで笑い話のように語った。
園監督は、そうしたおかしな表現規制について日本で闘う人はいないと明言し、日本の「ぼかし」について、「自主規制であらかじめぼかしをしているから、それに関しては誰も深く追求はしていない。日本映画は勃起した男性器が出るような危険な映画は少ないので、僕と三池監督くらいかな」と自嘲ぎみに語ったが、今後もその闘いは続けていくようだ。その目の輝きから、パン監督と共に今後も世界をわかせる作品を作り続けていくことは間違いないだろう。(編集部・下村麻美)