目指すはアカデミー賞! アメリカで活動する新鋭日本人監督の作品がカンヌでお披露目
カンヌ国際映画祭が短編映画監督をサポートするショート・フィルム・コーナーで今年、米国で女優としても活躍している宮崎光代監督『TSUYAKO』が選ばれた。同作品はショートショートフィルムフェスティバル&アジア2011(6月16日~26日、東京・表参道ヒルズ スペース オーなどで開催)のアジア インターナショナル&ジャパン部門での上映も決まっており、カンヌで一足先にお披露目となった。
宮崎監督は大阪府出身。11歳からミュージカルやオペラの舞台に立ち、高校時代に渡米。ロサンゼルスで女優やモデル、カメラマンなど多彩な活動をする一方で、ジョージ・ルーカスやロン・ハワードなど名だたる監督たちを輩出した名門・南カリフォルニア大学(USC)の映画芸術学部大学院に入学した。在学中には米コカ・コーラ社主催のリフレッシング・フィルムメーカーズ・アワードのファイナリストに選ばれ、また昨年夏にはイタリアのファッションブランド「DIESEL」のプロモーションCMも手がけた。『TSUYAKO』は同大学院の卒業制作だ。
作品の内容は、なかなか刺激的。戦後間もない日本を舞台に、厳しいしゅうとの監視の下で、工場勤務に、家事にと勤しんでいる女性・ツヤ子(勝俣幸子)が主人公。そんな真面目な彼女には秘め事があった。かつて、同性(藤真美穂)と愛し合った過去があったのだ。そんなツヤ子の元へある日、その元恋人が訪ねてきたことから心が揺れ始める。厳格な家に残るか? それとも元恋人との暮らしを選ぶのか……。みずみずしい映像の中で繰り広げられる2人の、禁断の情事は実に官能的だ。
本作のアイデアについて、脚本も手掛けた宮崎監督は「ウチのおばあちゃんの11回忌が2009年にあったのですが、遺品を整理していたら一枚の写真が出てきた」と語り、そこに写る、男性的な服装に身を包んだ祖母の姿に「直感で『おばあちゃん、レズやったんやろうな……』とわかったんです。昔からジーンズ履いて、ハンチング帽かぶって、男っぽい感じやったんですけどね」とサラリと告白。続いて、「おばあちゃんは後妻で、ひいおばあちゃんにいじめられて辛い思いをしながら、いつも逃げる用意をしていたそうです。なので、私たち孫には『決して諦めず、自分の好きな道を進みなさい』といつもサポートしてくれた。そんなおばあちゃんのように自由に生きられなかったあの時代の女性たちへ、(同性愛者であることを)カミングアウト出来なかった人たちへささげるつもりで本作を作りました」と作品に込めた思いを語った。
本作は、まさかの昭和レトロな同性愛物語という内容もさることながら、製作体制もユニーク。撮影期間はわずか6日間で、上映作品も24分だが、米国のスタッフを日本に招いて撮影を行ったこともあり製作費は500万円掛かった。それでも編集予算が足りなくなり、さまざまな企画への出資者を募るウェブサイト「KICKSTARTER」で協力を呼びかけたところ、185人が賛同し、計1万3,996ドル(約111万9,680円)が集まった。それは、目標金額5,800ドル(約46万4,000円)をはるかに上回る数字だった。宮崎監督は「今回のカンヌへの渡航費もここから賄うことができました。また、サウンドのファイナルミックスはルーカス・フィルムが持つSKYWALKER SOUNDで行ったんですけど、映像を観て気に入っていただき、無償で協力してくれたんです!! それでもまだまだ赤字ですけど」と苦笑しながらもうれしい悲鳴をあげる。(1ドル80円計算)
宮崎監督の目標は明確だ。それは、本作でアカデミー賞短編部門でのノミネートを狙い、孫の視点からとらえた『TSUYAKO』の長編映画を撮るチャンスを得ること。米国アカデミー賞公認のショートショートフィルムフェスティバル&アジア2011への出品も、オスカーへの道だったから。宮崎監督は「『TSUYAKO』は私の名刺代わりであり、あくまで長編のためのショーケース。だからこれだけの労力もお金も掛けたんです」ときっぱり。祖母の言葉を胸に我が道を突き進む、宮崎監督の活躍を見守りたい。(取材・文:中山治美)