東日本大震災後を描く映画では世界最速公開に 『無常素描』は撮影から1か月半のスピード製作
大宮浩一監督が、東日本大震災後の被災地の様子をとらえたドキュメンタリー映画『無常素描』が、6月18日より、オーディトリウム渋谷にて公開される。 5月の撮影から1か月半での公開という異例のスピードで製作された本作は、東日本震災を撮影した作品では最速公開となる。
福島県三春町の福聚寺の住職を務める玄侑 宗久氏の「無常としか言いようがないですよね」という言葉から始まる本作には、これまでわたしたちが目にしたことのなかった被災地の風景が、淡々と映し出される。本作が撮影されたのは、4月28日から、5月4日まで。ワイドショーでは連日のように、被災地を訪れる有名人の炊き出しの様子がにぎやかに報道されていた、ゴールデンウィークまっただ中だった。だが、スクリーンにはマイクを持って現地の様子を伝えるレポーターも、避難所を訪問する有名人たちも登場しない。車を走らせても、走らせても、車窓からの風景は、瓦礫が山積みとなった荒れ果てた大地。どこまでも続く悪夢のような光景は、終わることのない無間地獄のようだ。そこには、人の声も聞こえず、街に流れているはずの音もない、胸が押しつぶされそうになるほどの静寂が広がる。瓦礫の山に散乱するのは、家族のアルバムや、プリクラを張ったキャラクターもののプリクラ帳、片方だけになった小さな黄色い長靴。それまで、平凡で幸せな生活を送っていたひとびとの生活が、一瞬にして、“無”となってしまった無情な現実を、ナレーションのない、静寂に包まれた映像が突き付ける。
車の中で毛布にくるまって眠るおばあちゃんや、鼻水をたらしてむせび泣くおじいさん、「もう海の近くには住みたくない」という祖母に、「でも海は好き。太陽が照らすと超きれいになる!」と笑った孫が、「海の近くに住んでみた方がいいですよ」と言った後にみせる悲しげな表情。カメラはただ寄り添うように、被災者たちの姿を映し出す。3月11日、すべてを奪っていった自然の猛威に、なすすべもなく立ち尽くす人々の姿は「一体、いま、何をすべきか」「復興とはなんなのか」と、さまざまな疑問をわたしたちに問いかけてくる。聖マリアンナ医科大学 災害医療支援班として被災地で医療活動を行った、気仙沼出身の小野寺英孝医師は、この映画の公開に際し、「記憶にある故郷・気仙沼は目の前にあるのに、生活の音、においが一切ないことに、ある種の恐れを抱いたのを思い出しました。(中略)被災地でわたし自身が感じた感覚が、映像化されていることに驚きました」とコメントを寄せた。東日本大震災から今月で3か月。故郷を失い、家族や大切な人を失った被災地の現実は変わらない。この映画は、日本を襲った最大の悲劇と向き合う時間を、改めてわたしたちに与えてくれるはずだ。(編集部:森田真帆)
映画『無常素描』は、6月17日19時半より先行上映、6月18日(土)よりオーディトリウム渋谷にてロードショーほか、全国順次公開