ジョン・ウー監督次回作は被災地へのメッセージからスタート! 女性が主人公の新作に「男とは違った美しさ」
映画『男たちの挽歌』以来、熱い男たちの義理や友情を描いて世界中の映画ファンを熱狂させてきたアジアンノワールの巨匠ジョン・ウー監督が、女性を主人公にした武侠(ぶきょう)アクション『レイン・オブ・アサシン』や自身の映画人生について語った。『レッドクリフ』シリーズの世界的ヒットも記憶に新しいウー監督が、故キン・フー監督やアン・リー監督の名前を挙げ、以前から念願だったという武侠(ぶきょう)映画に挑戦した本作。しかも、主人公はミシェル・ヨーふんする女刺客だ。
これまで一貫して男の世界を描き続けてきたウー監督は、本作で女性を主人公にしたことについて「武侠(ぶきょう)映画といえば男という固定概念を破りたい気持ちがありました。義理や人情といった感情は、男性に限らず女性の心にも強くあるのではないか。しかも女性の目や生き方を通して描けば、男とは違った美しさで描け、観客に与える感動や響きにも効果的ではないかと思いました」とその理由を語った。
劇中ではアクションだけではなくミシェル・ヨーの繊細な愛情や、些細(ささい)な心情の変化も見どころのひとつ。役者の持ち味を尊重するため、撮影現場ではあまり演技に口出ししないことをモットーにしているというウー監督は、「役者と会うとまず互いを理解するためにコミュニケーションをとるようにします。相手の特徴を観察して、その人のイメージを脚本に書き加え、役者の演技や内面に近づこうとすることが大事です」と役者へのアプローチの仕方を解説。「脚本にその人の姿や影が反映されていれば、役者は自分を演じるくらいの自然体で演技ができるし、撮影現場でいろいろとうるさく言って役者のプライドを傷つけてしまうこともないのです」と独自のこだわりを明かした。
ハリウッドでの活躍後、香港に戻り、自身の集大成ともいえる『レッドクリフ』シリーズを完成させたウー監督は今年65歳。現在はアジアを軸にしながらフランスやヨーロッパ、さらに日本を舞台にしたグローバルな作品の企画も進めているといい、「今まで友情に支えられて仕事をしてこられたと言っても過言ではないし、わたし自身これからも友情を大事にしたい。それといろいろな文化圏でさまざまな作品を作りながら、自分の探検を深めていきたいのです」と飽くなき挑戦心を語った。さらに「この不安定な時代だからこそ、思いやりの心を持つことが素晴らしいのだと思う。そういうわたしの美学や哲学を映画の中に反映できるのを非常にうれしく思っています」と監督業への思いに力を込めた。
日本を襲った東日本大震災にはとても胸を痛め、本作の来日記者会見でも被災者への哀悼(あいとう)の意を口にしたウー監督は、次回作のオープニングに日本へのメッセージを込める予定だという。「海に折り鶴が流されているシーンから始めようと思っています。折り鶴といえば日本だとわかるし、日本の被災された方々への哀悼の意と、これから力強く生きていく方々への敬意を表したいと思います」と口調は穏やかだが、気骨ある映画監督ジョン・ウーとしての人情あふれる心意気をにじませていた。
『レイン・オブ・アサシン』は明朝期の中国を背景に武術界の究極の奥義をめぐって最強の刺客たちが繰り広げる武侠(ぶきょう)アクション大作。アジアのトップスターと一流スタッフが集結し、孤高の女刺客にミシェル・ヨー、相手役にチョン・ウソンがふんする。(取材・文:中村好伸)
映画『レイン・オブ・アサシン』は8月27日より新宿武蔵野館ほか全国公開