ニューヨークのインディーズの巨匠ジョン・セイルズ監督を直撃!米比戦争がアメリカで語られない事実とは?
映画『エイトメン・アウト』や『希望の街』などで知られるニューヨークのインディーズを代表するジョン・セイルズ監督が、新作『アミーゴ(原題) / Amigo』について語った。
同作は、1900年代のフィリピンを舞台に、当時同国を占領していたスペインからの独立を図ろうとしていたフィリピンの援助をする名目で、スペインを破った米国だったが、パリ条約において2,000万ドルでフィリピンを購入し、フィリピンを植民地化していくまでの過程を描いたジョン・セイルズ監督の意欲作。
今回、フィリピンを舞台にした映画を製作しようと思った経緯についてジョンは「米比戦争を知ったのは、僕が『ロス・グサノス(原題) / Los Gusanos』というキューバと米国の歴史にかかわった小説を執筆していたとき、そのリサーチで過去の戦争について調べていた際に初めて知ったんだ。僕はその当時は30代後半で、フィリピンに住んでいた親戚が居たにもかかわらず、なぜこの米比戦争の事を全く知らなかったのか不思議に思えたんだ」と意外な事実を告白した後、さらに「それから、僕はフィリピン系アメリカ人の友人たちにこの米比戦争の事について聞き出したんだ。すると彼らは、『我々アメリカ人はこの事は学校で習っていない! 僕らが習ったのは、フィリピンはスペインにそれまで300年支配され、その後パリ条約において2,000万ドルでアメリカに売られたということだけだった。その後、フィリピンがアメリカから独立するために60万も命を失ったことは習っていないんだよ!』と言われ、そんな戦争がアメリカの歴史から消されていることに疑問を持ち始めたのが、この映画の制作のきっかけになったんだ」と隠されたアメリカの歴史に興味を持ったようだ。
撮影はフィリピンで行われ、さらに激しい戦闘シーンも含まれているため、独立系映画として、どうやって制作資金を捻出したのか。「まず、自分の制作する映画が、大きなスタジオのもとで製作されないのであれば、配給までにはかなりの高い丘を登っていかなければ公開の道はないんだ! 確かに1990年代から~2002年にかけて独立系映画製作というものが成り立っていた。その中でも、ワインスタイン兄弟は最も有名だった。そのときが独立系映画のピークで、独立系製作会社がそれなりの制作費を払っても、ある程度興行を見込むことができたんだ。だが、今はそういった形態が無くなってしまった。今はほとんどの独立系制作会社は、興行を見込んで制作費を出さなくなってしまい、知名度のある俳優の作品でさえも、映画館で公開されないケースが増えてきているんだ。だから、今作までの過去の3作と同じで、自分たちで配給するしかなかったんだ……」と明かした後、レッドカメラを使ったデジタル撮影で、コストを削減したことも話してくれた。
ジョン・セイルズの映画の常連として出演しているクリス・クーパーについて「この映画では、クリスの出演時間がこれまでの作品と比べて少ないが、彼はしっかりとした基盤を持つ素晴らしい俳優というだけではなく、他の俳優にも非常に寛大で、彼ら(若手)のために側で指導していた。それに彼の演技は、彼が発した言葉の裏に、彼の心の中で何かが起きているのかわかるほど魅力的な演技をする」と褒めた。この映画でクリスは米軍を率いる大佐役を演じている。
映画は、アメリカで語られない歴史に焦点を当て、さらにセイルズ監督は演出を通してインディーズならではの真骨頂を発揮している。現在、セイルズ監督は元KGBで毒殺されたアレクサンドル・リトビネンコを題材にした脚本を執筆しているそうだ。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)