「原発さえなければ…」市原悦子、村井国夫、松田美由紀、渡辺えり、名優たちによる核廃絶を訴える朗読劇が上演
市原悦子、村井国夫らが、演劇を通して原発事故被害、原発労働、そして世界の劣化ウラン弾による被害の恐ろしさを伝える朗読劇「核・ヒバク・人間」が、27日と28日の両日東京都渋谷区の全労済ホールにて上演された。
約2時間弱にわたる朗読劇は、福島第一原発の事故により被災した福島の人々の事故当時の証言からはじまり、原発が作られたきっかけ、劣化ウラン弾による戦争被害の実態、世界各地にいる原発労働者の叫びなど、日本国内の核問題にかかわらず、グローバルな視点から核問題に切り込んだ内容。シンプルな作りの舞台の上で、市原悦子、村井国夫、円城寺あや、根岸季衣、松金よね子、松田美由紀など、約40人以上のそうそうたる名優たちが、劣化ウラン弾の後遺症に苦しむ子どもたち、若くして白血病と戦いながら死んでいった原発従事者、そしてふるさとを失った福島の人々など、それぞれの役柄を熱演し、多くの犠牲のもとに成り立っている原発繁栄の真実、そして“安全神話”に隠されたたくさんのウソ、弱者たちの苦しみが根底にある核社会の現実を訴えた。
白血病で亡くなった原発労働者の母親を演じた市原は、「今回の演劇を上映するために、スタッフの方々が深くリサーチをして脚本を作り上げました。福島だけではなく、劣化ウラン弾など、核そのものによって苦しめられている人がたくさんいること。日本だけではない、各国の反応や、核に関する動き、原発の裏でたくさんの方が犠牲になっていること。この演劇を上演することによって、いろいろなことを学びました」と話し、「芸術の力で、表現を通して……とかではなく、わたしたちが、このような場を作って、演劇というわかりやすい形で、核という難しい問題を耳に届けられる機会が作れれば、それでいいと思っています」と語った。また飯舘村の酪農家・長谷川健一氏を演じた高橋長英は、「原発反対を訴えた芸能人が、バッシングをされてしまうということがありましたが、一人の人間として考えれば、原発反対と言うことなんて、ごく当たり前のことだと思うんです。いまだに避難を余儀なくされている福島の方々がいる一方で、北海道の泊原発再開が決まったり、どうもわれわれ庶民の考えと、政府の人々との考えが乖離(かいり)しているように感じてしまいます。はらわたが煮えくり返るほど悔しい思いを持って、今回の劇に臨みました」と朗読劇にこめた思いを語った。
この日、第二部には、高橋が舞台で演じた、飯館村で酪農家をしていた長谷川健一さん本人が登壇し、映像と写真を交え、今なお続く飯舘村の人々の苦しみを訴えた。映像ナレーションは、女優の市毛良枝が務め、福島第一原発の事故で、廃業を決心した飯舘村の酪農家たちが、涙ながらに家族同然の牛たちを、と畜場へと送る姿がスクリーンに映し出された。長谷川さんが、相馬市で、自ら命を絶った酪農家の友人の話を「原発さえなければ」と壁に書かれた最後の言葉を写した写真をスライドに映し出しながら語ると、会場からはすすり泣きの声が聞こえた。ハンカチで涙を押さえながら会場を出てきた世田谷区在住の女性は、「今日は来て良かったです。福島の方の苦しみを、目の前で聞き、そして原発だけでなく核社会の恐ろしさを今日の朗読劇を通して知りました。わたしにとってとても重要な一日となりました」と話した。心を一つに……演劇人たちの思いがつまった本作の台本は、近くホームページ上で公開される予定だという。(編集部:森田真帆)