加藤登紀子、放射能汚染の福島・飯舘村に「やるせなさに掛ける言葉がなかった」と涙
27日、枯葉剤被害の実情を描いた映画『沈黙の春を生きて』の公開を記念し、歌手の加藤登紀子、坂田雅子監督のトークイベントが東京・岩波ホールで行われた。本作でナレーションを担当した加藤は、作品を通じ大きな愛や生命の崇高さを強く実感したといい、放射能汚染にさらされた福島県飯舘村を訪問した話も交え、時に涙ぐみながら自身の思いを語った。
映画『沈黙の春を生きて』は、アメリカ軍がベトナムで1961年から14年にわたり続けた枯葉剤散布作戦により、被害を受け人生を大きく狂わされた人々とその家族の姿を追ったドキュメンタリー作品。加藤はやはり枯葉剤被害の実態に迫った坂田監督の前作『花はどこへいった』を鑑賞し、「作品の中で『素晴らしい人たちに会って癒やされた』という一文があり素晴らしいと思いました」とナレーションを引き受けた経緯を明かし、本作では枯葉剤の深刻な被害を受けながらも「生命を輝かせ、大きな愛を持って生きている」出演者たちの姿に感動したと感想を語った。
本作で枯葉剤という目に見えぬ恐怖にさらされた人々の姿は、震災による原発事故で放射能汚染に見舞われた人たちの姿とも重なってくるが、加藤はその中の一つである福島県飯舘村を5月に訪問。地震や津波による被害ではなく、放射能汚染により「見た目には何も失われていないのに、暮らした土地や仕事を奪われた人たちのやるせなさに掛ける言葉がなかった」と、涙をにじませながら語った。
しかし加藤は大きな困難に見舞われながらも希望と明るさを失わずに生きる本作の出演者たちに触れ、「闇が深いほど光には敏感になるし、映画の中でも『困難を乗り越えたことで幸せにたどり着けた』という言葉がありました。生命の崇高さを感じたし、若い人たちにたくさん見てほしい」とメッセージ。予定時間を15分以上超えて熱く語り、最後に本作との出会いがきっかけとなりレコーディングされた加藤の「アメージング・グレイス」が場内に流されると、涙を拭う人たちの姿が多く見られた。(取材・文:長谷川亮)
映画『沈黙の春を生きて』は岩波ホールにて上映中