鈴木杏、孤独な主婦に衝撃!29歳新鋭監督の作品に家族の不確かさと危うさを実感
28日、渋谷のユーロスペースにて南果歩主演の映画『家族X』のトークショーが行われ、29歳にして本作を撮り上げた新鋭、吉田光希監督と本作に感銘を受けたという女優の鈴木杏がゲストに登場し、家族の定義について語り合った。
誰にとっても、もっとも近くて遠い存在である「家族」をテーマに、その存在の不確かさと危うさを真摯(しんげき)に迫った本作。観た後にまず疲労感に打ちのめされたと言う鈴木は「砂をかまされたような気持ちになる、ザラッとしたものが胃にたまっていくような映画でした」と鑑賞直後の衝撃を告白。「最初はのぞき見をしているような感覚で(劇中の家族とも)距離感をもって観れていたのに、気が付けばすぐ側まで行ってしまうような、巻きこまれる感じがありました」とそれが他人事には思えなくなる本作の演出を絶賛していた。
その演出について吉田監督は「家族の悲しみとか辛い瞬間とか、思い悩む瞬間を撮るために、編集を考えながら撮るよりも、運動会を撮るお父さんのように、ただそこにいる家族を見つめることを大事にしました」とこだわりを披露。さらに監督は、主演の南果歩が撮影後に「撮影中の私生活が思い出せない」と言ったエピソードを披露し、それほど俳優が役に入り込む現場だったことを明かすと「俳優さんも演技をするときは自分の中のリアリティーをよりどころにすると思うんです。なので、そこに入り込みたかった。南さんが演じるのであれば、南さんのリアリティー、そこに触れることが映画のような気がして、それを見たかった」と撮影当時29歳にして本作を撮り上げた、独特の手腕の裏側を語った。
そんな本作から考えさせられる家族像について、鈴木は「生まれたときから一緒にいるからといって、常に見ていなくても大丈夫と思ったら終わりなんだ。ちゃんとまなざしを向けていないといけないんだ」としみじみ。「会話が少ないというのがこんなに怖い空気を醸し出すんだなと思いました。『おはよう』でも『ただいま』でも声を掛け合うことはすごく大事だと思いました」と家族の在り方に改めて向き合っていた。
本作は映画『症例X』がロカルノ国際映画祭をはじめ数々の映画祭で上映された新鋭、吉田光希監督が撮り上げた家族の物語。郊外の一軒家で暮らすある家族にスポットを当て、それぞれが孤独や不安を抱え込んでいくさまをカメラが静かに切り取る。(取材・文:中村好伸)
映画『家族X』は渋谷ユーロスペースほかで全国順次公開中