ドキュメンタリー映画界巨匠フレデリック・ワイズマン監督を直撃!御年81歳来日してトークショーも!「今の時期だからこそ、日本に関心を持つべき」
ドキュメンタリー映画界の巨匠フレデリック・ワイズマン監督が10月下旬に来日する。日本未公開作8作品を含む36本を上映する自身最大規模回顧上映「フレデリック・ワイズマンのすべて」に参加するためで、10月29日の東京・ユーロスペースを皮切りに、高知、神戸、金沢、京都でもトークショーを行う。福島第一原発事故以降、放射能汚染を恐れて来日する映画人が減少しているが、このほどインタビューに応じたワイズマン監督は「もうこの歳だし、恐れることの程ではない。今の時期だからこそ、(日本に)関心を持つべきだと思う」と4度目となる日本を楽しみにしているようだ。
今回の特集上映で紹介されるのは、ワイズマン監督作40本のうちの実に36作。うち前作『ボクシング・ジム』ほか8作品が日本初公開となる。特に、9週間に渡る米陸軍兵の過酷なトレーニングを追った『基礎訓練』(1971)、空軍将校の訓練を描く『ミサイル』(1987)では、かつて米陸軍法務部に勤務していたワイズマン監督ならではの切り口に関心が集まりそうだ。ワイズマン監督は「自分が米軍に所属していたのは1950年代。『基礎訓練』を撮影した頃はまだ東西冷戦時代だ。その時代も終焉を迎え、今とは敵も違えば兵器も違うし、それらに対する戦い方も違ってきているだろう。ただ基礎訓練自体は今も昔も、それほど変わっていないと思う」と今見ても、色褪せない作品であることを強調する。
1930年生まれのワイズマン監督は現在81歳。製作意欲は衰えることを知らず、年に1本のペースで新作を発表し続けている。テーマも多義に渡り、先にあげた軍や政治、教育現場、病院、街など多方面から米国社会を見つめた作品から、『パリ・オペラ座のすべて』(2009)をはじめとする芸術、そして『ボクシング・ジム』(2010)のようなスポーツにまでスポットを当てている。そして最新作は、フランス・パリにある有名なキャバレーの店名をそのままタイトルにした新作『クレイジー・ホース』。10月22日~30日に開催される東京国際映画祭で招待上映が決まった話題作だ。同店はヌードを芸術にまで高めたと言われるショーが話題となって今では観光スポットとなっているが、ワイズマン監督は約12週間に渡って密着している。裸体に興味をお持ちとは、実にお若い…と水を向けると「じゃあ、何歳で撮ればベストだと思うんだい!?」と茶目っ気たっぷりに笑った。
ワイズマン監督が『クレイジー・ホース』を撮るきっかけとなったのは、フランスの著名振付師フィリップ・ドゥクフレが新たに同劇場のコレオグラファーとして就任したことに興味を抱いたという。そのドゥクフレが新作のショー「デザイサー」を創り上げていく過程を中心に、同店の裏側に迫る。特に、新人ダンサーのオーディションに、トランスセクシャルの人が混じっていたこともカメラは逃さない。ワイズマン監督は「トランスセクシャルを映像に入れたのは、ブランドを作り上げていくために肉体がいかに重要視されているか?を示したかった。女性の美というのはどういうモノで形作られていて、何がエロティシズムを醸しだしているのか? オーディションの場面は、映画のテーマにも深く関わるシーンだったと思う」と説明する。
ワイズマン監督自身、肉体には並々ならぬ興味を持っているのだという。「実はこれまでの作品はほとのど“肉体“について描いているんだ。軍関連の作品は、国益のために肉体を鍛える人たちが主人公だし、『DV-ドメスティック・バイオレンス』もなんてまさにそうだ。『ボクシング・ジム』も暴力を振るいたい衝動をコントロールするためにトレーニングしているんだからね。『クレイジー・ホース』のダンサーたちも、綺麗な肉体を保つために食事を制限するなど苦心していたよ」とワイズマン作品の意外な共通点を口にした。
ちなみに、日本のストリップ劇場には足を運んだことはないそうで、「日本に行った時にぜひ行ってみたいな。連れて行ってよ(笑)」と関係者におねだり。この旺盛な好奇心が作品を生み出すエネルギー源になっていることを伺わせた。
レトロスペクティブ「フレデリック・ワイズマンのすべて」は10月29日~11月25日、東京・ユーロスペースにて開催(順次、神戸や金沢などでも開催)