新作はアート映画世界初となる3D映画のヴィム・ヴェンダース、「3D技術を使っていくのは映画作家の義務」
第24回東京国際映画祭
ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダース監督が初めて3Dに挑んだ映画『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』が第24回東京国際映画祭で招待作品として上映されるのに合わせて来日したヴェンダース監督が、25日、映画美学校で記者会見を行った。
映画『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』で世界的に知られるヴェンダース監督は、これが5年ぶりとなる来日。今回は天才舞踊家として活躍し2009年に惜しまれながら亡くなったピナ・バウシュにフォーカスし、彼女が残した舞踊作品を劇場から飛び出し現代建築や自然の中で新たに撮影、アート映画では世界初の3D作品となる『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』として結実させ、この新作を携えての日本訪問となった。
生前ピナと25年にわたる交流を持ったヴェンダース監督だが、「最初はダンスやバレエといったものに全く興味がなかった」と意外な告白。しかし25年前、イタリア・ベニスに滞在した際、当時の彼女に誘われピナのダンスを観に出掛けたところ、「人生が変わるほど」あるいは「息をするのが苦しいぐらい」大きな感動があったと語る。
世界の巨匠ヴェンダースをして、「ものすごく大きなことが起きているのはわかったが、それが何かはわからなかった」と理解を超える感動をもたらしたピナの舞踊世界。監督はピナについて、「彼女は『わたしはダンサーがどう動くかには興味がない。何が彼らを動かしているかに興味がある』と語っていて、それが彼女と他の舞踊家を分け、自分を惹(ひ)きつけた理由だと思う」と続け、踊りの域を超え、人間存在を問うものにまで昇華させた点に衝撃を覚えたようだった。
また、これまでアクションやSFなど超大作に多く見られた3D技術だが、ヴェンダース監督は、「3D技術を使っていくのは映画作家の義務。技術というのは言語と一緒で使うことで磨かれていく。大手のスタジオに任せていては言語ではなくアトラクションにしてしまい、3D技術をダメにしてしまう。映画作家は3D技術を使いこなしていくべきだ」とメッセージを発信。自身も本作の撮影を通じ3Dが人間の存在感をこれまでより圧倒的に描けることに気が付いたと言い、没入感のある映像を生み出せることから、対象の世界へどんどん入り込んでいく「ドキュメンタリーにはいい技術ではないか」と、従来にはない提言をしていた。(取材・文:長谷川亮)
映画『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』は2012年2月25日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9ほかにて全国順次3D公開