三谷幸喜監督を直撃!新作『ステキな金縛り』はニューヨークで確かな手応え!
1990年代にテレビドラマ「古畑任三郎」や「王様のレストラン」で名をはせ、その後『ラヂオの時間』や『THE 有頂天ホテル』などで映画界でも活躍してきた三谷幸喜監督が、ニューヨークで行われた映画『ステキな金縛り』のワールドプレミアで、新作について語った。
同作は、失敗続きの弁護士エミは(深津絵里)は、上司から最後のチャンスを与えられ、ある妻殺しの事件を担当することになる。だが、その妻殺害の容疑をかけられた被告人となる夫は、犯行が行われていたときはある旅館で金縛りにあっていたと主張したことから、その被告人の上に一晩中のしかかっていた落ち武者幽霊の六兵衛(西田敏行)に証言をさせることになるという奇想天外な法廷裁判をコミカルに描いた作品。
まず、アメリカ人の反応は「日本人の方が多いと伺っていたのですが、一番後ろで観ていて、英語の字幕で反応される方も多かったので、そういう方々(アメリカ人)が笑ってくださっているのがすごく嬉しかったです。例えば日本でウケるような、皆さんが知っている俳優さんがちょこちょこ出ていて、佐藤浩市さんや草なぎ剛さんが出てくると、日本だとそこで湧くんですけれど、こちらではだんまりとしていたので、それは良い意味でフラットな状態で観てくださって、そんな中であれだけ笑ってくださっているということは、この作品の持っている力を感じることができましたね」と映画好きのニューヨーカーの評価に満足しているようだ。
今回、ニューヨークをワールドプレミアに選考した理由は「僕は自分自身をコメディ作家だと思っているのですが、僕の笑いの原点というのは、アメリカのシットコム(連続ものストーリー構成だが、一話完結ものコメディ)なんですよ。子どものときから、テレビシリーズ『アイ・ラブ・ルーシー』とか『奥様は魔女』とか観て育った人間なので、笑いのリズムとかセンスとかは、すごくこのシットコムに影響されているんです。だから、そういう国(アメリカ)に逆に恩返しと言うか、それで育った僕がこんなものを作りました。それをお見せしたいと感じていたことがきっかけですね」と語った。
映画内では、過去の日本作品を彷彿させるシーンがあり、こういうパロディは日本では理解されるが、アメリカで理解されるかという懸念はなかったのだろうか。「パロディと言われればそうなのですが、僕の中ではそれでお客さんを笑わせようという思いは全然なくて、むしろ僕は自分の映画を作るときに、これまでもそうですが、僕自身が映画ファンなので、自分が今まで観てきた映画や好きな映画をモチーフにして集めているんです。だから、オープニングで始まるタイトルバックもそうですが、今日本では、あのようなオープニングでは作らないんですよ」とオープニングから、すでにこだわっていること強調し、さらに「僕はアメリカ映画の『ピンクパンサー』や、ソウル・バス(アメリカのグラッフィック・デザイナー)などの、すごくおしゃれなアニメで始まるオープニングが好きだったんです。だから、それを一回やってみたかったので、今回取り入れたんです。そのため、これを知らなくても、そのおしゃれ感は伝わると思っています。それと、映画『犬神家の一族』を思い起こさせるシーンもありますが、その作品をアメリカ人がご存じなくても、何の不自由もなく観られると思っています」と語る通り、数多くの名作を観てきた三谷監督が、随所に映画ファンを喜ばせるツボを映画内で披露している。
裁判を扱っている映画ということで、観客が傍聴席に座っている気にさせてくれる点について「裁判もの作品が本当に大好きなんです。僕は1961年生まれで、僕が小学生になった頃から10歳くらいまで、毎日のようにアメリカ映画がテレビで放映されていたんです。今はあまり日本でないですけれど、当時はアメリカの40年代~60年代くらいまでの古い映画をやっていて、ずっとそれを観て育ってきたんです。映画『十二人の怒れる男』もそうだし、映画『或る殺人』、さらに映画『ニュールンベルグ裁判』もあって、裁判映画につまらないものはないと10歳のときに確信していたくらいなんですよ(笑)。それ以来、(本格的な)裁判ものはいつかずっとやりたいと思っていて、やっと今回実現しましたね」と答えた。しかも映画は、前代未聞の裁判設定になっているため、裁判映画が好きではなくても、楽しめる作品になっている。
ビリー・ワイルダー監督作を彷彿させるシリアスとコメディが同居する演出をしているが、彼に影響は大きいのだろうか。「そうですね。僕はやっぱり一番尊敬する監督/脚本家はビリー・ワイルダー監督で、いつも悩むときはワイルダー監督だったらどうするだろうかというのが、僕の考え方の基本ではあるんです。ただ、この作品に関していうと、ワイルダー監督の持っているシニカルな部分とか、ちょっと意地悪な部分は、この作品には向いてないなぁと思って、今回は映画内にも出てくるフランク・キャプラ監督の作品を扱っているんです。キャプラ監督は、こちらが恥ずかしくなるくらいの人間を愛するというテーマで作っていて、今回は(僕も)少しキャプラ監督よりに作っています」といつものワイルダー調ではなく、ちょっと角度を変えたキャプラ調で観客を楽しませることを約束している。
最後に三谷監督自身は、観客とともに自分が制作した映画を鑑賞することは初めてだったそうだ。「マスコミ試写やスタッフで観る試写はありましたが、一般のお客さんとともに観るのは初めてだったんです。今回はたまたまニューヨークですけれども、この作品をより多くの人に(これから)観てもらうための前哨戦で、しかもそれがニューヨークだという喜びはありまして、僕の中ではこれからの挑戦というか、第一歩という印象が強いですね」と今後の抱負も語った。映画は、三谷監督が長年温めてきた作品であるため、涙あり、笑いありの感情移入しながら鑑賞できる秀作になっている。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)