隠れた巨匠!? ハリウッドに反抗した『理由なき反抗』ニコラス・レイの魅力とは?
今年のベネチア国際映画祭やニューヨーク映画祭で特別上映が行われ、生誕100年を迎えるにあたり再評価の高まる映画監督ニコラス・レイの、作品の魅力と波(はらん)万丈な映画人生を探ってみた。
帝国ホテルを設計した建築家フランク・ロイド・ライトの主宰するコミュニティーで過ごした変わった経歴をもち、映画『波止場』のエリア・カザンに誘われて演劇から映画へ転向したレイ。共産主義者をハリウッドから追放した「赤狩り」では、かつて左翼運動に深く関係していたが、大富豪の映画製作者ハワード・ヒューズの助けで命拾いをしている。しかし、ハリウッドで活躍したのは1950年代とほんの短い期間。一体、レイに何が起こったのか?
ハンフリー・ボガート主演の映画『暗黒への転落』『孤独な場所で』、ジョン・ウェイン主演の映画『太平洋航空作戦』などでメガホンを取り、デビュー後しばらくは順風満帆に見えたレイのハリウッド人生。大スターに気に入られ、俳優の持ち味を存分に輝かせる手腕を発揮する。代表作『理由なき反抗』においても、繊細なジェームズ・ディーンのカリスマ性を100パーセント引き出した。
先に挙げたサスペンスや青春映画、さらには映画『北京の55日』のような歴史スペクタクルまであらゆるジャンルを手掛ける多彩な才能をもちながら、レイの作品はジャンルを超越する異彩を放つところも魅力だ。社会になじまない登場人物や後味の悪いストーリーは、古き良きハリウッドとは一線を画すもの。しかし、強い作家性をもつ異端児ゆえに、誰もが認める巨匠とはなり得なかったのかもしれない。
たとえば西部劇『大砂塵』は女同士が火花を散らすエピソードを軸にロマンスを絡め、「西部劇イコール男の世界」にあらずと思わせる異色作だ。しかし、アメリカでは散々な批評を受けてしまう。一方ヨーロッパ、とりわけヌーベル・バーグの監督には好評で、フランソワ・トリュフォーは「西部劇の『美女と野獣』だ」と絶賛した。アメリカの批評家にこき下ろされ、アルコールやドラッグのトラブルが撮影に影響するようになったことも重なり、一時期レイは姿を隠すようにアメリカを去っていた。
そんなレイの幻の映画といわれる映画『ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン』が、11月19日開幕の東京フィルメックスで披露される。レイが大学生と共同で製作した実験的作品で、1973年のカンヌ国際映画祭で上映されたが、レイ自身の手で何度も手直しをされているという。ハリウッドに反抗した早すぎた天才、ニコラス・レイの作品を体験してみてはいかがだろう。(岩永めぐみ)
映画『理由なき反抗』は11月23日(水)よる7:00よりWOWOWシネマにて放送